そう言われて、思わず涙が滲んだ。
せっかくのお化粧が台無しになってしまうと思い、込み上げるものをぐっと堪える。

私、ただの木偶の坊じゃないのかな。
大切だったバスケはできなくなってしまったけれど、先輩が言うように、ほかにも素質があったり、何かを成し遂げる力があるのかな。

「自分がこんなふうになれるなんて、知りませんでした」

「メイクって楽しいでしょ?」

「はい……!」

私の返事を聞いて、先輩が満足そうにけらけらと笑う。

「メイクはね、人を選んだりなんてしないの。だから顔立ちや性別も関係ない。いつだって綺麗になりたいと思う心に寄り添って、力をくれるんだ」

知らなかった。
お化粧は、かわいい女の子にだけ許された特権のようなものだと思っていたのだ。
まさかこんなにも自由で優しく、力強いものだったなんて。
先輩のおかげで目の前がパッと開ける心地がする。

それなら私にも力を貸してほしい。
できることなら私も、先輩のように自分に自信を持ちたいのだ。
戻らない過去を悔やんだり自分を卑下したりするのではなく、ただ前を向きたいと、今この瞬間、強く強く思った。

――私、変わりたい。

「……先輩! お願いします!」

「ん?」

「私を弟子にしてください!」

気づいたときには、そんなことを口走っていた。
私の言葉によって、目の前の先輩の目が再び大きく見開かれる。

「で、弟子って?」

「私、先輩みたいに自分に自信を持った、輝く人になりたいんです! 先輩からならきっと、たくさんのことを学べる気がするんです!」

「ええっ?」

「だから私を先輩のそばに置いてください!」

逸る気持ちが抑えきれなかった。
私、自分を変えたい。
先輩のとなりでなら、それが叶う気がするのだ。

「えっと、つまりモデルになってくれるってことだよね? それならこちらも大歓迎!」

「本当ですか!?」

「もちろん!」

差し出された手を取り、固く握手をする。
ふわりと微笑んで受け入れてくれた先輩は、まるで女神様のようだと思った。

「そう言えば、まだ名前を聞いてなかったね。私は二年の七海(ななみ)。あなたは?」

佐倉(さくら)です。佐倉礼と言います」

「礼ちゃんね。涙は女の武器って言うけど、礼ちゃんは笑っている方が断然かわいい」

そう言って笑う先輩の方が、もちろんずっと綺麗でかわいいけれど。
七海先輩がかわいいと言ってくれるなら、私ももっと笑っていようと思った。
新しく始まる高校生活が、涙に暮れてしまわないためにも。
そう、前向きに心を入れ替えていると。

「七海っ!」

突然野太い声で、誰かが先輩の名前を叫んだのが聞こえた。
かと思えば次の瞬間、私たちのいる演劇部の部室の扉が、スパンと音を立てて開かれたのだった。

「げっ!」

「やっと見つけたぞ……」