MVに出ていたときは実年齢より大人っぽく見えていたのか、私が現役高校生だということが知れ渡ると、ずいぶんと世間の人たちを驚かせたようだった。
先輩が予想したとおり、正体を明かした私の元にはたくさんの仕事が舞い込んだが、今はまだ見習いモデルで学業優先ということもあるため、実力を見ながら少しずつ受けさせてもらっている。
世界一のモデルになることを夢見て、私は毎日努力と経験を重ねていた。

「今ごろ向こうに着いたかしら?」

「うん。そうだね」

そうして私の周りが少しずつ落ち着くころ、とうとう七海先輩もアメリカへと渡っていった。
となりがぽっかりと空いてしまった寂しさは埋められるものではないけれど、私たちには目に見えない絆があると信じているから、私は今日も笑っていられる。

「礼は意外と大丈夫そうね。もっと泣いて落ち込んじゃうものかと思ってたんだけど」

「私は私で頑張らないといけないから、もう泣いてる暇はないんだ」

私がそう言うと、和奏は安心したように顔を綻ばせた。
そんな和奏を見て伝えなければならないことを思い出し、カバンの中に入れていたとある雑誌を取り出す。
彼女に向けて開いたページは、その雑誌の専属モデルオーディション開催のお知らせだった。

「実は私ね、美亜さんが看板モデルをやっている雑誌のオーディションを受けることにしたの」

「へぇ。それって、女優やタレントの登竜門って言われている有名なやつでしょう?」

「うん。事務所の人にも聞いたんだけど、かなり難関のオーディションらしいんだ」

この雑誌のオーディションは年に一回大々的に開かれるもので、応募総数は毎年1万人ほどいるものの、選ばれるのはたった数人という狭き門だ。
モデルとしての才能や力量だけではなく、最終審査には読者投票もあったりしてその人間性も評価される。
しかし難関なだけあって受かればそれだけで知名度は高まり、歴代の受賞者はモデルだけではなく女優やタレントなど各方面で活躍されていた。
芸能界に憧れる誰もが目指す場所。
そんな世界に足を踏み入れる覚悟は、もうすでに決まっている。

「最終選考までに4回も審査があるわ。厳しい道のりね」

「大丈夫。私なら絶対に受かってみせるから」

「ちょっと待って。礼、なんだか最近あいつに似てきたわよね」

「えっ、本当!?」

「ええ。自信がついたのは嬉しいけど、少し複雑だわ」

思わぬ指摘に目を瞬かせ、和奏と二人で笑い合う。
それから私は、制服の下に隠したおそろいのネックレスを優しく握った。

私の目の前には人生という、まだ始まったばかりの果てしないランウェイが広がっている。
きっとこれから困難が待ち受けていたり、下を向いてしまうことだってあるだろう。
それでも何があったって諦めたりしない。
つまづいても、何度だって立ち上がって、輝いてみせる。
だから先輩、遠くで見守っていてくださいね。

二人で誓い合った約束を思い出し、顔を上げる。
遠くに光る夢を目指して、私はまた意気揚々と歩き始めた。