「なあに? 私の言葉が信じられないって顔をしてるね」

「それは、その……まぁ」

「じゃあ身をもって分からせてあげる」

「わああ! 待ってください! だっ、誰かにお化粧をしたいだけなら、別に私じゃなくてもいいじゃないですか!」

言葉巧みに進めようとする先輩に、慌てて待ったをかける。
そうだ、こんなコンプレックスだらけの偏屈な私じゃなくても、かわいい女の子ならそこら中にたくさんいる。
その中から、素直に応えてくれる子を捕まえてくればいいのに。

「駄目だよ、あなたじゃなきゃ」

しかし、私の言葉を彼女はすっぱりと否定した。

「そんな、どうして……」

「私が、あなたに惚れたから」

高らかに言い切られ、先輩を見つめたまま放心する。
私なんかに惚れた、って。

「私ね、自分の理想に合うメイクモデルをずっと探してたの。小学生のころからだから、本当にもう、ずっとずっと前から」

「その理想のモデルが、私だと……?」

「そう。それで今日、やっと見つけたんだから。絶対に逃したりしない」

驚きに息が詰まる。
そんなの、にわかには信じられない。
今、適当に見繕っただけの言葉かもしれない。

「あなたじゃなくちゃダメなの! お願い! 少しだけでいいから協力して!」

「私じゃなくちゃ……ダメ……」

けれどその言葉が、今の私にはとてつもなく嬉しかった。
こんな何も持たない木偶の坊の私を必要としてくれている。
それだけで救われるような心地がしたのだ。

「それなら、あの……ほんの少しだけなら……」

「本当っ!?」

おずおずと託すように言うと、先輩はパッと表情を明るくさせた。

今の私に失うものなんてない。
ならば少しくらい彼女に付き合ってもいいじゃないか。
この先どうなろうが、彼女のこの笑顔が見られただけで儲けものだ。
そう決意して、真っ直ぐに背筋を正す。

「今の言葉、しっかり聞いたからね! はい、じゃあ目を閉じて」

言われるがまま目を閉じると、先ほどの柔らかな手がもう一度顔に当てられた。
ドキドキと心臓が早鐘を打つが、肌をすべる感触はなんだか心地よく思える。
先ほど言われたとおり化粧水や乳液というもので保湿を終えると、彼女は肌の色ムラや毛穴の凹凸をカバーする下地というものを塗ってくれた。

「下地の次はファンデなんだけど……んー、肌が綺麗だから余計なものはいらないか」

そう言うと、先輩はフェイスパウダーという透明な粉をつけて、肌をさらさらにしてくれた。
これで土台の肌を整えるベースメイクというものは終わりらしい。
私はこんなにもたくさんの工程があるものなのかと驚いたが、彼女曰く、これでもかなり少ない方なのだそうだ。

「次はポイントメイクに入るね」

「ポイントメイク?」

「そう。口紅やマスカラといったものならあなたも聞いたことがあるんじゃない?」

「は、はい。それくらいなら」