「ん? ……すげえ、これプレミアチケットじゃん!」

「なかなか手に入んないんだよな」と、チケットを手に取った先輩が目を輝かせる。
思ったとおり、やはり彼はこういうものが好きらしい。

「そう言えば礼と普通の高校生みたいに遊んだことってなかったよな」

「いっつもお互いの夢のことばかりに夢中でしたもんね」

「じゃあ麻生に感謝しながら、最後にパーっと遊びに行くか。土曜日なら空いてるけど礼はどうだ?」

「私も大丈夫です!」

さくっと決まってしまった約束に舞い上がる。
やった、先輩と久しぶりのお出かけだ。
どうしよう、何を着ていこう。
先輩も絶対におしゃれな格好をしてくるだろうし、見劣りしないように私も頑張らなくては。

メラメラと謎の対抗心を燃やした私は、帰宅してからすぐさま自分のクローゼットを漁った。
そうだ、このあいだ一目惚れして買ったブラウンのセットアップを着ていこう。
これなら軽い素材で動きやすいはずだし、服の色味に合わせてアイシャドウはオレンジブラウンやゴールドを使ってカラーマスカラにしたら可愛いかもしれない。
リップはアンニュイなピンクで落ち着かせてアイメイクとのバランスを取って、髪は元気な外ハネにしてもいいし、編んでクラシカルにまとめてもいい。
ボストンタイプのメガネをかけて知的に見せるのもありだ。
いろんなアイディアがわき上がってきて、片っ端から鏡の前で試していく。
おしゃれな洋服を着たりかわいいヘアメイクを施すのは、もはや私にとって日常的なことになっていた。
失意のどん底にいた半年前には想像もできなかった今の自分が、なんだか感慨深くなる。

「うん。いいかも」

何回も鏡とにらめっこをして、やっと納得いくコーデが完成するころには、ゆうに3時間が経ってしまっていた。
それでも自分にしては会心の出来に、つい心が弾んでしまう。

コンプレックスだったはずの高い背丈は、ほどよく筋肉のついた長い手足のおかげでどんな服も映えて見える。
凛々しくてかわいくないと思っていた顔は、ニュートラルな造作のおかげでメイク次第ではどんな雰囲気にだって寄せられる。
臆病なところも引っくるめて、私はいつしか今の自分を認めてあげられるようになった。
それもすべては七海先輩のおかげだろう。
返しきれないくらいたくさんのものを受け取った私は、そんな彼に対して、最後に何ができるのかな。



約束の土曜日は神様が味方をしてくれたように空が晴れ渡っていた。
気持ちが逸ってしまい、待ち合わせ場所である最寄駅に30分も早くついてしまった私は、持ってきた手鏡でヘアメイクの最終チェックをしていた。
編み込みヘアは上手くいったし、アイシャドウの発色もばっちりだ。
ゴールデンウィークに待ち合わせをしたときは会うなり先輩にダメ出しをされたけれど、きっとこれなら彼も褒めてくれるだろう。

「礼、おはよう」

かわいいと思ってもらえたら嬉しなと期待して待っていると、後ろからちょうどよく先輩の声がした。

「おはようございます、せ、先輩!?」

弾かれたように振り向いて挨拶を返す。
しかしその声は先輩の姿を見た瞬間に間抜けなほど裏返ってしまった。
それもそのはず。

「どうしたんですか!? 髪がすごく短くなってる!」

「どうだ? こういうのも似合うだろ?」

「は、はい、そりゃあ先輩は何をしたって似合いますけど……」