一学年差の私たちは、先輩の方が先に卒業してしまうけれど、少なくともあと一年は同じ学校に通えるものだと思っていた。
そして大人になってからだって、きっとずっと彼のそばで成長していけるのだと、私は信じて疑わなかったのだ。
それなのに、こんなにも早く私のとなりから先輩がいなくなってしまう。
しかも3年間もだなんて、今の私には想像もできないくらいに長い。

「こんなチャンスめったにない。先輩には頑張ってもらいたいし、私も応援したい」

「ええ」

「でも寂しい……! 寂しいよ……!」

和奏に縋りつき、嗚咽混じりに泣き声を上げる。
先輩がいなくなってしまう。
それが未来のために必要な別れだと分かっていても、今はまだ心が耐えられなかった。
一度流れ始めた涙はとどまることを知らない。
そうしてしばらくのあいだわんわんと泣き続けていると、そのうち頭を撫でてくれていた和奏が私の肩を強く掴んだ。

「こら、そろそろしっかりしなさい。礼がそんな調子でどうするの?」

「和奏……」

「留学が控えていて不安になのはあいつの方なのよ? ここはあなたが支えてあげないとでしょう?」

私を思いやってくれているからこその厳しい言葉に、自然と涙が止まる。
情けなく曲がった背筋を伸ばして、濡れた頬を手でぐいと拭うと、和奏はやれやれと眉を下げた。

「残された時間は短いかもしれない。だけど礼にできることはたくさんあるはずよ」

「うん。和奏の言うとおりだね」

「さぁ、顔を上げて。私も協力するから、一緒にこれからのことを考えましょう?」

薄暗い部室へと、夕暮れの日が光明のように差し込む。
残された時間はあと少し。
それまでに、いったい私は何ができるだろう。