私が、先輩に、恋。
えっ、いや、まさか、そんなことは。

「礼? どうしたんだよ、黙りこくって」

ふと、頭の中が混乱してきた私の顔を、先輩がぐっと覗き込んだ。
彼のお人形さんのように整った顔立ちを間近に感じ、慌てふためきながら首を振る。

「いっ、いないですいないです! いたことないです、好きな人なんて!」

「そうなのか、もったいない。礼ならどんな人間の心だって奪えるのに」

「それは褒めすぎですよ……!」

「そんなことねーよ」

先輩のケラケラとした笑い声を聞きながら、私はどこか茫然自失としていた。

私が先輩に恋をしている……!?
確かに先輩のことは尊敬しているし、頼りにしているし、世界一かわいくてカッコいい人だと思っているけれど、それは恋という感情なのだろうか。
分からない、まったく分からない。
人はいつ、どうやって、自分が恋をしているのだと気づくのだろう。

「礼が好きになるのは、きっとすげーいいやつなんだろうな」

私の気持ちを知らずに、先輩がなんの気もない様子でそんなことを言った。
私が自分に恋をするかもしれないだなんて、まるで考えていないみたいだ。
きっと先輩の中の私は、放っておけない危なっかしい後輩でしかないのだろう。
けれどそれはなんだか少し寂しい気がする。
私の中の先輩が特別な存在であるのと同じように、私も彼の中の特別になれたらいいのに。
胸に感じたつきりとした痛みを不思議に思っていると、先に気持ちを切り替えた先輩が愛用のカメラを手に取った。

「よし、そろそろ撮影に入るか」

「……せん、ぱい」

「ん?」

「あの、えっと」

先輩に何か言いたい。
そう思ったはずなのに、こんがらがった感情を上手く言葉にすることができず、私は唇をはくはくと動かすしかなかった。
言葉に詰まる私を、先輩が不思議そうな顔で見上げる。
綺麗な顔が再び近づいてきて、思わず息を呑んだ。

ん、いや、ちょっと待って。
なんだかやけに先輩が近くないか?

「先輩……」

「どうした? 今日の礼、なんか変だぞ?」

「いえ、あの、先輩、少し背が伸びましたか?」

「へっ?」

「前は並ぶと、先輩の頭頂部を見てたような気がしたんですけど」

「たしかに妙に礼との目線が近いな」

姿勢を正して並んでみても、やはり私の目線は先輩の頭頂部ではなく彼の額にくる。
私の身長は変わっていないはずだから、おそらくは先輩の背が伸びたのだろう。
目を見合わせたままお互いに固まった私たちは、それからどちらともなく駆け出し、一目散に保健室に飛び込んだ。
さっそく先輩が身長計に沿って立ち、私が目盛りを確認する。

「168センチです」

「嘘だろ!? 春から6センチも伸びてる!」

「そんなにですか!?」

「ああ。成長期なんてとっくに終わったと思ってたんだけどな。そういや最近膝とか足首が痛かったのは背が伸びてたせいだったのか」

呆然とした先輩は、ハッと自分の顎を触った。