有名動画サイトにある芹沢響さんのオフィシャルチャンネルにて、彼の新曲のミュージックビデオ映像が公開されたのは、夏休みが明けてすぐのことだった。
発売に先駆けたプロモーションの一環でショートバージョンに編集されてある、いわゆるティザー映像と呼ばれるそれは、ちょうどサビのところでお城のシーンが使われていて、もちろん私の姿も映っている。
しかし詳細なクレジットは発売まで発表されないらしい。
つまり私の名前はまだ明かされておらず、そのため“MVに映る謎の女性”は、SNSやネットニュースを中心に少しだけ世間を騒がせていた。
「れーいー! 会いたかった!」
「わあっ、先輩!?」
久しぶりに演劇部の部室へ赴くと、扉を開けた瞬間、私は七海先輩からの熱烈な歓迎を受けた。
目を輝かせた彼に抱きつかれ、思わず目を白黒させる。
今日の先輩は黒髪ロングのウィッグに太めのカチューシャ、それから清潔感のある白シャツにライン入りのベストを組み合わせていて、まるで海外ドラマに出てくるスクールガールのようだ。
「先輩ごめんなさい。なかなか放課後に時間が取れなくて」
「いいんだよ。俺専属のモデルを卒業したのは寂しいけど、誇らしくもあるんだからさ」
七海先輩がふふんと自慢げに笑う。
夏休みの一件によりモデルになる覚悟を決めた私は、フランスからの帰国後、すぐに誘われていたプロダクションに所属することになった。
それからというもの毎日のようにレッスンに励んでおり、必然的に先輩と過ごす時間が減ってしまっていたのだ。
今日はレッスンがお休みのため、久しぶりに先輩のモデルができると、私はとてもわくわくしていた。
そしてどうやら先輩も同じ気持ちでいてくれたらしい。
「早くやろーぜ! 最近いいハイライトが手に入ってさ! リップとチークの新作も買ったから試したいんだ!」
「はいっ! お願いします!」
久しぶりの魔法の時間に胸をときめかせながら鏡の前へと向かう。
普段はほとんど会話をせずに集中している私たちだけれど、会えない時間が長かったせいで、積もる話がたくさんあった。
話題はもっぱら動画サイトに上がったMVのことで、あの階段のシーンがいいやら、あのメイクは映りがよかったやら、思いつくままに語り合っていく。
「ネットニュースもすごいよな。芹沢響のMVに映る謎の美女は誰だって」
「はい。美女だなんて、畏れ多くて照れ臭いんですけど」
しかし自画自賛かもしれないが、あのMVに映る私は自分でも自分には見えないくらい輝いて見えた。
それはもうあまりの変貌ぶりに、未だ同級生にすら気づかれていないくらいなのだから。
「でもなんだか不思議でもあるんです。少し前まで、私はあんなにも自分の見た目にコンプレックスを持っていたのに」
「そういや昔、男子にからかわれたことがあるって言ってたっけ?」
「はい。巨人ってあだ名で呼ばれたり、かわいい服を着るたびにからかわれました」
「ほんと馬鹿だなそいつら。どうせ礼の気を引きたくてやったんだ。昔も今も、礼はずっとかわいいよ」
先輩がくれる、てらいのない“かわいい”の言葉。
それはもう出会ったときから何度も言われているはずなのに、私は今でもドキドキとしてしまう。
メイク中は顔を隠すことができないのに、赤くなってはいないだろうかと心配していると。
「まぁ、どんな理由があったって、言われた本人には関係ないけどな」
発売に先駆けたプロモーションの一環でショートバージョンに編集されてある、いわゆるティザー映像と呼ばれるそれは、ちょうどサビのところでお城のシーンが使われていて、もちろん私の姿も映っている。
しかし詳細なクレジットは発売まで発表されないらしい。
つまり私の名前はまだ明かされておらず、そのため“MVに映る謎の女性”は、SNSやネットニュースを中心に少しだけ世間を騒がせていた。
「れーいー! 会いたかった!」
「わあっ、先輩!?」
久しぶりに演劇部の部室へ赴くと、扉を開けた瞬間、私は七海先輩からの熱烈な歓迎を受けた。
目を輝かせた彼に抱きつかれ、思わず目を白黒させる。
今日の先輩は黒髪ロングのウィッグに太めのカチューシャ、それから清潔感のある白シャツにライン入りのベストを組み合わせていて、まるで海外ドラマに出てくるスクールガールのようだ。
「先輩ごめんなさい。なかなか放課後に時間が取れなくて」
「いいんだよ。俺専属のモデルを卒業したのは寂しいけど、誇らしくもあるんだからさ」
七海先輩がふふんと自慢げに笑う。
夏休みの一件によりモデルになる覚悟を決めた私は、フランスからの帰国後、すぐに誘われていたプロダクションに所属することになった。
それからというもの毎日のようにレッスンに励んでおり、必然的に先輩と過ごす時間が減ってしまっていたのだ。
今日はレッスンがお休みのため、久しぶりに先輩のモデルができると、私はとてもわくわくしていた。
そしてどうやら先輩も同じ気持ちでいてくれたらしい。
「早くやろーぜ! 最近いいハイライトが手に入ってさ! リップとチークの新作も買ったから試したいんだ!」
「はいっ! お願いします!」
久しぶりの魔法の時間に胸をときめかせながら鏡の前へと向かう。
普段はほとんど会話をせずに集中している私たちだけれど、会えない時間が長かったせいで、積もる話がたくさんあった。
話題はもっぱら動画サイトに上がったMVのことで、あの階段のシーンがいいやら、あのメイクは映りがよかったやら、思いつくままに語り合っていく。
「ネットニュースもすごいよな。芹沢響のMVに映る謎の美女は誰だって」
「はい。美女だなんて、畏れ多くて照れ臭いんですけど」
しかし自画自賛かもしれないが、あのMVに映る私は自分でも自分には見えないくらい輝いて見えた。
それはもうあまりの変貌ぶりに、未だ同級生にすら気づかれていないくらいなのだから。
「でもなんだか不思議でもあるんです。少し前まで、私はあんなにも自分の見た目にコンプレックスを持っていたのに」
「そういや昔、男子にからかわれたことがあるって言ってたっけ?」
「はい。巨人ってあだ名で呼ばれたり、かわいい服を着るたびにからかわれました」
「ほんと馬鹿だなそいつら。どうせ礼の気を引きたくてやったんだ。昔も今も、礼はずっとかわいいよ」
先輩がくれる、てらいのない“かわいい”の言葉。
それはもう出会ったときから何度も言われているはずなのに、私は今でもドキドキとしてしまう。
メイク中は顔を隠すことができないのに、赤くなってはいないだろうかと心配していると。
「まぁ、どんな理由があったって、言われた本人には関係ないけどな」