「オシャレな街ですね」

「芸術の都って言うくらいだからな」

先輩はというと、この機会を逃すまいといった様子で、いくつものセレクトショップにも駆け込んでいた。
買い込んだ戦利品の紙袋を持ちながら、ほくほくとした顔で笑っている。

「パリと言えば、再来月はこの辺ももっと賑わってるだろうぜ?」

「何かイベントでもあるんですか?」

「パリコレだよ」

「ぱりこれ……」

「名前くらい聞いたことあるだろ? おそらく世界で一番規模のデカいファッションショーだ」

たしかに名前は自体は聞いたことがある。
先輩曰く、パリコレとは年二回この地で開かれるファッションブランドの新作発表会のことだそうだ。
詳しくは分からないが、世界各地のモデルさんが有名ブランドの洋服をまとい、大きな会場のランウェイを歩くイメージは私にもあった。

「有名ブランドはモデルのオーディションも熾烈で、ランウェイを歩く権利を勝ち取れば、それだけでモデル自身の誇りになる。一流のショーモデルともなれば、ブランドの方から直々に指名が来たりもするんだ」

「一流の、ショーモデル……」

「俺にとっても憧れだな。いつかヘアメイクの仕事で携わってみたい」

先輩の目がきらきらと輝く。
そこはきっと、いろんな憧れが詰まった大舞台なのだろう。
先輩がそこを目指すと言うのなら、私も一緒にその景色を見てみたい。
もちろん、トップモデルとなって。

「いつかまた二人でここに来ましょう。そのときには先輩からヘアメイクを施された私が、有名ブランドのランウェイを歩くんです」

「大きく出たな。いいぜ、約束な」

不敵に笑った先輩から小指を差し出され、約束の印に指切りをする。

きっと私たちなら叶えられる。
そんな全能感に満ち溢れながら、私は新たにできた夢を彼に誓った。