「演劇部……?」
扉に掛かる木製の看板にはそう書かれているから、おそらくは演劇部の部室なのだろう。
そして先輩はこれまた迷わず扉を開け、中へと入っていった。
「どうぞ遠慮なく入って。衣装とか小道具で埋まってるから、ちょっと狭いけど」
「は、はい……」
招き入れられた私は、戸惑いつつもぐるりと室内を見回してみた。
劇で使われるような小道具が部屋いっぱいに埋めつくされていて、やはりここは演劇部の人が使うところだと分かる。
ならばこの先輩も演劇部の部員の一人なのだろうか。
そんなことを考えていると、部屋の奥にぽつんと置かれた机の上で、彼女が何か細々としたものを並べ始めたのが見えた。
手に取っているのは、きらきらとした色とりどりの道具だ。
どれをどのように使うのかはまったく分からないけれど、たぶんお化粧に使うものだろう。
そんな自分とは縁のない道具たちを眺めていると、彼女は私の視線に気づいてにっこりと笑った。
「はい、座って座って! それからこれで顔を拭いて!」
「えっ? わぁっ!」
またもや強引な言葉で椅子に座らされた私は、今度は唐突に白いシートのようなものを顔面に充てがわれた。
そのまま、そのシートで顔を拭われる。
一体これは何をしているのだろう。
次々と繰り出される先輩の行動に、頭の中がかき回される。
されるがまましばらくじっとしていると、顔を覆っていたシートはようやく離れていった。
「あなた、すっぴんなの?」
しかし続けざま、彼女はきょとんとした顔でそう言った。
すっぴんって、お化粧をしていない素顔のままって意味のはずだ。
学校にばっちりお化粧をしてくる生徒なんかほとんどいないと思うのだけれど、どうしてそんな質問をするのだろうか。
「……ええ、まぁ」
「本当に!?」
たっぷりと5秒もの間が空いてから私が戸惑いがちに答えると、先輩はその大きな目をさらに見開いた。
「ファンデもなしにこの肌? 何か特別な手入れをしているとか?」
「手入れ? いいえ、特には」
「じゃあスキンケアには何を使ってるの!?」
「すき……? なんですか、それ……?」
お次は一体どうしたというのだろう。
突然饒舌に問われて、私はもう何がなんだかさっぱり分からなくなってしまった。
先輩の勢いに気圧されながら、潤ったその瞳がさらにきらきらと輝くのをどうしたものかと見つめる。
それにしても本当にかわいらしい人だ。
私とはまるで真逆の人。
私は幼いころからかわいさとは程遠い女の子だったから、それを同級生の男の子たちに心ない言葉でからかわれたこともある。
そんなコンプレックスもあって、大きな自分を活かすことのできるバスケに熱中したのだ。
思い出すと、悔しさが滲んでくる。
バスケができなくなったら、またあのコンプレックスに苛まれることになるかもしれない。
再び煮えたぎるような感情が募り始めたと思ったそんなとき、ふいに頬が柔らかな感触に包まれた。
「あの、これは何を……」
見れば目の前にいた先輩が、私の頬に手のひらを当てていた。
彼女の手は少しだけ水分を帯びていて、その水分を私の顔全体に含ませていくように手のひらを滑らせていく。
扉に掛かる木製の看板にはそう書かれているから、おそらくは演劇部の部室なのだろう。
そして先輩はこれまた迷わず扉を開け、中へと入っていった。
「どうぞ遠慮なく入って。衣装とか小道具で埋まってるから、ちょっと狭いけど」
「は、はい……」
招き入れられた私は、戸惑いつつもぐるりと室内を見回してみた。
劇で使われるような小道具が部屋いっぱいに埋めつくされていて、やはりここは演劇部の人が使うところだと分かる。
ならばこの先輩も演劇部の部員の一人なのだろうか。
そんなことを考えていると、部屋の奥にぽつんと置かれた机の上で、彼女が何か細々としたものを並べ始めたのが見えた。
手に取っているのは、きらきらとした色とりどりの道具だ。
どれをどのように使うのかはまったく分からないけれど、たぶんお化粧に使うものだろう。
そんな自分とは縁のない道具たちを眺めていると、彼女は私の視線に気づいてにっこりと笑った。
「はい、座って座って! それからこれで顔を拭いて!」
「えっ? わぁっ!」
またもや強引な言葉で椅子に座らされた私は、今度は唐突に白いシートのようなものを顔面に充てがわれた。
そのまま、そのシートで顔を拭われる。
一体これは何をしているのだろう。
次々と繰り出される先輩の行動に、頭の中がかき回される。
されるがまましばらくじっとしていると、顔を覆っていたシートはようやく離れていった。
「あなた、すっぴんなの?」
しかし続けざま、彼女はきょとんとした顔でそう言った。
すっぴんって、お化粧をしていない素顔のままって意味のはずだ。
学校にばっちりお化粧をしてくる生徒なんかほとんどいないと思うのだけれど、どうしてそんな質問をするのだろうか。
「……ええ、まぁ」
「本当に!?」
たっぷりと5秒もの間が空いてから私が戸惑いがちに答えると、先輩はその大きな目をさらに見開いた。
「ファンデもなしにこの肌? 何か特別な手入れをしているとか?」
「手入れ? いいえ、特には」
「じゃあスキンケアには何を使ってるの!?」
「すき……? なんですか、それ……?」
お次は一体どうしたというのだろう。
突然饒舌に問われて、私はもう何がなんだかさっぱり分からなくなってしまった。
先輩の勢いに気圧されながら、潤ったその瞳がさらにきらきらと輝くのをどうしたものかと見つめる。
それにしても本当にかわいらしい人だ。
私とはまるで真逆の人。
私は幼いころからかわいさとは程遠い女の子だったから、それを同級生の男の子たちに心ない言葉でからかわれたこともある。
そんなコンプレックスもあって、大きな自分を活かすことのできるバスケに熱中したのだ。
思い出すと、悔しさが滲んでくる。
バスケができなくなったら、またあのコンプレックスに苛まれることになるかもしれない。
再び煮えたぎるような感情が募り始めたと思ったそんなとき、ふいに頬が柔らかな感触に包まれた。
「あの、これは何を……」
見れば目の前にいた先輩が、私の頬に手のひらを当てていた。
彼女の手は少しだけ水分を帯びていて、その水分を私の顔全体に含ませていくように手のひらを滑らせていく。