このブランドのメインターゲットは10代後半から20代の女性だというから、彼のファン層ともぴったり当てはまるし、起用も当然だろう。
イメージガールがあの葉山美亜さんなのも相まって、かなり話題性があるブランドになりそうだ。

「そんで葉山美亜もそのシングル曲のミュージックビデオに出演するんだけど」

「はい」

「実は俺がそのヘアメイクを担当できることになったんだよ」

「えええっ!」

自分の予想の範疇を超えたお話に、私は電話口にもかかわらず大きな声を上げてしまった。
曰くコンテストと企画のレシピを見たミュージックビデオのプロデューサーが、先輩を抜擢してくれたそうなのだ。
その方がとても変わった人で、新人でもなんでも、実力があれば積極的に起用しているらしい。

「まさか学生の俺にそんなでかい仕事が来るなんて思わなくてさ」

「すごい……すごいです! 応援してますね!」

「ありがとな」

ついに先輩の実力がいろんな方に認められだした。
それが自分のことのように嬉しくて、今にも駆け出したいくらいに舞い上がっていると。

「ところでさ、礼、パスポートって持ってるか?」

「へ? は、はい、持ってますけど」

「そっか、よかった」

先輩は突然、何やら不可解な確認をした。
パスポートなら、中学時代にバスケの海外合宿でつくったものがある。
しかしなぜパスポートと不思議に思っていると、耳元でこの上なく楽しげな笑い声が聞こえた。

「じゃあ一緒に行こうぜ! ミュージックビデオ撮影でフランス!」