最終審査に残っていたのは先輩を含めて4人で、いずれも美容専門学校の生徒さんたちだった。
審査は全員がステージに上がり、制限時間内にモデルへのヘアメイクを完成されるというものだ。
モデルはあらかじめ主催者側で決められていたため、今回私は力になれず、観客席で先輩を応援していた。
最終審査のテーマは“ウエディング”だった。
全員が同じ白いウエディングドレスをまとった黒髪のモデルにヘアメイクを施すという、シンプルかつ個人の色が出やすいテーマだ。
大勢の観客が見守る中でステージに上がった先輩は、けれどもわずかな緊張も感じさせずに作業に取りかかり始めた。
メイクの色づかいは鮮やかだけれどうるさくはせず、人目を引くように。
アレンジした髪の毛の質感や動きも絶妙だ。
唯一の高校生とはいえ、どれをとっても他のコンテスタントに引けを取らないテクニックとあまりにも堂に入ったその姿に、会場は終始圧倒されていた。
しかしそんな先輩の姿以上に私の目に入ったのは、コンテストモデルさんたちだった。
制限時間が終わり審査員が選考をしているあいだ、モデルさんはステージ上のランウェイを歩き、ヘアメイクを披露する。
そんな彼女たちの表情や動きを見ながら、私はとても羨ましく、もどかしいような心地にさせられた。
あの華やかなメイクなら、もっと表情を明るくして軽やかな動きもつけた方がいい。
あっちの人は髪型の奇抜なデザインに負けないように、もっと目力を込めるべきだ。
生意気にも「自分だったらもっとこうするのに」と思いながら、私は我に返って自嘲の笑みをこぼした。
今の私にそんなことを考える資格はない。
だって私はあのステージに立つ勇気すら持っていないのだから。
苦い思いを噛みしめながら、輝くステージをじっと見つめる。
そんな私をよそに、コンテストは先輩がグランプリを獲得し、無事に幕を閉じた。
「礼、久しぶり! 元気にしてたか?」
「七海先輩! はい、元気です!」
突然先輩から電話がかかってきたのは、7月の終わりのことだった。
学校は夏休みに入っており、毎日顔を合わせることはできないものの、日々彼とは連絡を取り合っている。
しかし久しぶりに先輩の声を聞くことができ、私の頬は自然とゆるんでいた。
「どうしたんですか? 何かありましたか?」
「礼さ、このあいだのコンテストの優勝特典にあったウェブ企画って覚えてるか?」
「優勝特典? えーっと、“メイクレシピの考案”っていうやつですよね」
「そうそう、それ」
電話の向こうで、先輩が楽しさを隠しきれないという様子で相槌を打つ。
彼の言うウェブ企画とは、コンテストに協賛していた化粧品会社による特典のことだ。
なんでも新しく立ち上げるコスメブランドの商品を使ってメイクレシピを考案し、それを公式サイト上で公開してもらえるというものらしい。
先輩の力が遺憾なく発揮されそうなその企画を、私は密かに楽しみにしていた。
「レシピの案はもう提出済みなんだけど、それが社内で結構好評だったみたいでさ」
そんな話を聞いて、「先輩が考えたものなのだから当然だ」と、なぜか私が得意げになる。
公開を待ち遠しく思いながらパソコンでブランド名を検索すると、公式サイトにはイメージガールの葉山美亜さんの写真と、Coming Soonの文字が掲載されていた。
「こっからが本題なんだけど、そのコスメブランドのCM曲に芹沢響っていうアーティストのサードシングルが起用されるんだ」
「はあ」
急にコマーシャルの話になり、私は首を傾げた。
芹沢響さんって、たしか最近人気の男性アーティストだったはずだ。
高い歌唱力と端正なルックスで、若い女の子たちから絶大な支持があるらしい。
審査は全員がステージに上がり、制限時間内にモデルへのヘアメイクを完成されるというものだ。
モデルはあらかじめ主催者側で決められていたため、今回私は力になれず、観客席で先輩を応援していた。
最終審査のテーマは“ウエディング”だった。
全員が同じ白いウエディングドレスをまとった黒髪のモデルにヘアメイクを施すという、シンプルかつ個人の色が出やすいテーマだ。
大勢の観客が見守る中でステージに上がった先輩は、けれどもわずかな緊張も感じさせずに作業に取りかかり始めた。
メイクの色づかいは鮮やかだけれどうるさくはせず、人目を引くように。
アレンジした髪の毛の質感や動きも絶妙だ。
唯一の高校生とはいえ、どれをとっても他のコンテスタントに引けを取らないテクニックとあまりにも堂に入ったその姿に、会場は終始圧倒されていた。
しかしそんな先輩の姿以上に私の目に入ったのは、コンテストモデルさんたちだった。
制限時間が終わり審査員が選考をしているあいだ、モデルさんはステージ上のランウェイを歩き、ヘアメイクを披露する。
そんな彼女たちの表情や動きを見ながら、私はとても羨ましく、もどかしいような心地にさせられた。
あの華やかなメイクなら、もっと表情を明るくして軽やかな動きもつけた方がいい。
あっちの人は髪型の奇抜なデザインに負けないように、もっと目力を込めるべきだ。
生意気にも「自分だったらもっとこうするのに」と思いながら、私は我に返って自嘲の笑みをこぼした。
今の私にそんなことを考える資格はない。
だって私はあのステージに立つ勇気すら持っていないのだから。
苦い思いを噛みしめながら、輝くステージをじっと見つめる。
そんな私をよそに、コンテストは先輩がグランプリを獲得し、無事に幕を閉じた。
「礼、久しぶり! 元気にしてたか?」
「七海先輩! はい、元気です!」
突然先輩から電話がかかってきたのは、7月の終わりのことだった。
学校は夏休みに入っており、毎日顔を合わせることはできないものの、日々彼とは連絡を取り合っている。
しかし久しぶりに先輩の声を聞くことができ、私の頬は自然とゆるんでいた。
「どうしたんですか? 何かありましたか?」
「礼さ、このあいだのコンテストの優勝特典にあったウェブ企画って覚えてるか?」
「優勝特典? えーっと、“メイクレシピの考案”っていうやつですよね」
「そうそう、それ」
電話の向こうで、先輩が楽しさを隠しきれないという様子で相槌を打つ。
彼の言うウェブ企画とは、コンテストに協賛していた化粧品会社による特典のことだ。
なんでも新しく立ち上げるコスメブランドの商品を使ってメイクレシピを考案し、それを公式サイト上で公開してもらえるというものらしい。
先輩の力が遺憾なく発揮されそうなその企画を、私は密かに楽しみにしていた。
「レシピの案はもう提出済みなんだけど、それが社内で結構好評だったみたいでさ」
そんな話を聞いて、「先輩が考えたものなのだから当然だ」と、なぜか私が得意げになる。
公開を待ち遠しく思いながらパソコンでブランド名を検索すると、公式サイトにはイメージガールの葉山美亜さんの写真と、Coming Soonの文字が掲載されていた。
「こっからが本題なんだけど、そのコスメブランドのCM曲に芹沢響っていうアーティストのサードシングルが起用されるんだ」
「はあ」
急にコマーシャルの話になり、私は首を傾げた。
芹沢響さんって、たしか最近人気の男性アーティストだったはずだ。
高い歌唱力と端正なルックスで、若い女の子たちから絶大な支持があるらしい。