ずっと自分に自信がなかった。
変わらなくてはいけないと思っていた。
そんな私を、いつの間にかいろんな人が信じてくれている。
今だって怖いことは怖い。
けれどそれ以上に、私も自分自身を信じてみたいと思う。

「“私はかわいい”」

自分にかけていた呪いを解くように、先ほど言い淀んだ言葉を口にしてみる。
呆気なく響いたその言葉は、それでも私の心を強く満たし、先輩の顔を綻ばせた。

「先輩、聞いてくれますか」

「なんだ?」

「私ね、結構すごい選手だったんですよ」

帰り道、私が何気ない調子でそう言うと、先輩の体がかすかに固まったような気配がした。
彼には怪我をしてバスケができなくなったことしか伝えていなかったから、私が初めてそれ以上について言及したことに驚いたのだろう。
なんとなく話したかっただけだったのだが、先輩にとっては思ったよりも衝撃的なことだったらしい。
窺うように見つめられ、「大丈夫だ」という思いを込めて笑みをつくる。

「練習は人一倍頑張ってたと思います」

「だろうな」

「強化選手に選ばれたり、自分で言うのもなんですけど、将来を期待されてて」

「うん」

「バスケが、大好きだったんです」

目を閉じれば今でもつぶさに思い出せる。
ボールの感触、コートの匂い、弾んだ音や鳴り響く声援。
バスケに邁進した日々は、私にとってかけがえなく楽しい時間だった。
先輩が褒めてくれた私のいいところだって、その中で育まれたものなのだろう。
だからこそ、バスケと出会ったことを後悔することなんてしない。
ありのままの自分を認めて、私はやっと、過去の自分のことも受け入れられた気がしていた。
これからはもっと前を向ける予感がする。

「モデルのことも、もう少し考えてみます」

「そっか。礼が決めたことなら、俺は全力で応援するから」

「ありがとうございます。先輩がいてくれてよかったです」

「ああ。俺はいつだって礼の味方だ。それだけは忘れんな」

そう言って先輩がウインクをする。
こんなに心強い味方は、きっと世界中を探してもいないだろう。
そんな大船に乗った気分で、私はからからと笑った。



「気が向いたらいつでも連絡してね」という言葉に甘え、私はスカウトの件を保留という形にしてもらった。
まるで足踏みをしている私とは対照的に、和奏は夏休み中に行われるコンクールに向けて練習に励んでいる。
そして七海先輩も、学生向けのヘアメイクコンテストというものに挑んでいた。

「学生向けのコンテストって、基本的に対象が専門学校生ばかりなんだけど、これは高校生も出場可能なんだ」

そう言ってゴールデンウィーク明けに応募していたのは、有名雑誌や大企業が協賛する大きなコンテストだった。
一次審査が作品の画像を郵送する書類選考で、二次審査がマネキンを使用した実技試験、最終審査では大きな会場を貸し切るショー形式の選考になっている。
今までに撮り溜めた私の写真を使用し一次審査に受かった先輩は、二次審査の実技も難なくパスし、ついに最終審査へと駒を進めていたのだ。