息が荒くなり、言葉が出ず、私は何度も何度もしゃくりあげた。

「……わ、わたっ、私っ」

「今は無理して喋らなくてもいい」

そう言って私が落ち着くまでのあいだ、先輩は静かに肩を貸してくれた。
彼のブラウスの左肩が私の涙で濡れ、じわじわと色を変えていく。
それを申し訳なく思い離れようとすれば、先輩は構わないとでもいうように、左手を私の後頭部に添えた。

先輩は優しい。
優しくて強い、私の光だ。
当たり前のように何度も受け取ってきた彼の光で、私はずっと生かされてきたような気がした。

「……私、何も変わっていませんでした」

少しずつ息が整うようになったころ、私はようやく先輩から離れ、ぽつりぽつりと打ち明けた。
なおも先輩が気遣わしげに私を見上げるのを、無理やり笑顔をつくりながら受け止める。

「いつまで経っても臆病で弱いままなんです」

吐いた言葉を体現するように声が震え、たまらず目を伏せる。
七海先輩と出会って、私は変わりたいと思った。
彼のように自信を持った、輝く人になりたいと。
実際彼のそばにいることで、私は自分に自信が持てるようになってきた気でいた。
けれどそれは簡単に打ち砕かれるような、とんだまやかしだったのだと気づかされたのだ。

「私は本当に舞台の上で輝けるような人間なのでしょうか」

弱音を口にするとますます自己嫌悪が深まってしまうけれど、もう止めることができなかった。
いくら先輩の魔法で飾り立てられても、本物の私は臆病で弱虫な木偶の坊なのだ。
そんな私がモデルなんてきらびやかな職業を目指しても、挫折するだけだと思ってしまう。

「怖いんです……」

夢を追って、それを失って、いつかまた絶望する日が来るかもしれないと思うと、怖くて足がすくんでしまう。
そんなことを考えて、やる前から踏みとどまってしまう自分の弱さも嫌いだ。
それでも不安で、前へ進めない。
バスケには戻れない、モデルにもなれない。
もうどうしたいのか、どうすればいいのかすら分からない。
まるで行き場を失ってしまった迷子のような心地で立ち尽くしていると、目の前で私の言葉を黙って聞いていた先輩が、私に向かって右腕を伸ばした。

「礼はずっと前から自分に自信がないみたいだったけど、俺は礼のいいところなんてたくさん知ってる」

そのまま、先輩は右手の親指で私の目尻に溜まっていた涙を払った。
そんな彼の行為に初めて会った入学式の日を思い出す。
たしかあのときも、こんなふうにして慰められた。
あの日以来、何度も私の顔に触れた、優しくあたたかい先輩の手。

「礼儀正しくて、努力家で、友達思いで、思慮深い。背筋がいつも真っ直ぐに伸びているのもいいな。見ていて気持ちがいい。それからもちろん、笑顔がかわいいところも」

先輩の眼差しに嘘はない。
いっそ太陽を司る神様みたいに、正しく、燦然と佇んでいる。

「礼のいいところはたくさんあるんだ。それに欠点のない人間なんていない。だからさ、そんなことばかりに囚われるなよ」

そう言うと、先輩は部室にある窓に視線を向けた。
耳を澄ませば、窓の向こうから校舎の外周を走るバスケ部の掛け声が聞こえてくる。

「ここにいるとよく聞こえてくるよな、この声。そのとき、礼はいつも気にしていないフリをして、無理やり笑顔をつくってた」

たしかに放課後、この掛け声が聞こえてくるたび、私は苦しくなる胸を押さえて笑っていた。
そうやって周りの人に心配かけないようにしていたつもりだったけれど、先輩には気づかれてしまっていたらしい。