葉山美亜さん。
この人、知ってる。
今、中高生に一番売れているという雑誌の看板モデルをしている方だ。
毎月のように雑誌の表紙を飾っていたり特集を組まれたりしている彼女は、私がスカウトされたプロダクションに所属していたはずだ。
きっと今日の撮影モデルは彼女なのだろう。
誌面で見ていたときもかわいいと思っていたけれど、実際にお会いしてみると、なんというか“すごい”としか言いようがなかった。
顔が小さい、手足が長い、肌が透きとおるかのように白い。
印象的なのはくりっとした猫目だろうか。
そこに居るだけで空気がパッと華やかになり、圧倒的な存在感を見せている。
七海先輩に初めて会ったときも衝撃的だったけれど、彼女もまた別次元の人のようだ。

「背ぇ高いね! 何センチあるの?」

「175センチですっ」

「そっか。その身長、この世界では大きな武器になるよ」

スポーツくらいでしか活かせないと思っていたコンプレックスの身長が、モデルの世界でも武器になる。
プロのモデルさんに太鼓判を押され、私の心は舞い上がった。
私もこの世界で輝けるのかもしれない。
そう思うと、胸が高鳴る。

「美亜さん、準備をお願いします」

「はーい」

そこでスタッフの方から声がかかり、葉山さんは颯爽とした足取りでスタジオの中心へと向かっていった。
張り詰めていた現場の空気が、彼女の登場で和らぐのが分かる。
ホリゾント幕と呼ばれる白い背景を背にして立ち位置を確認し、伏せられていた目が真っ直ぐにカメラへと向く。
その瞬間、空気が変わった。

「わっ…………」

思わず声を出してしまった自分の口を慌てて押さえる。
それくらい、彼女のまとった気は私にとって衝撃的なものだった。
否が応でも目を奪われてしまうような圧倒的な存在感と華やかさ。
シャッター音が鳴るたび表情とポージングを七色に変えていく彼女に、私はどうしようもなく感情を揺さぶられた。

「すごい……」

自信があってオーラがあってきらきらしていて。
こういうものをカリスマ性と言うのだろう。
これが、本物のモデル。
次はどんなふうに、心を動かしてくれるのだろう。
そんなことを思いながら、私はいつの間にか、彼女の一挙手一投足を待ち焦がれるように見つめていた。

「やっぱ美亜ちゃんはいいね」

そばにいたスタッフの方が感嘆とした調子で呟く。
その声をどこか遠くで聞きながら、私は足元から崩れ落ちるような心地がして必死に踏ん張った。

私もあんなふうになれるのだろうか。
同じプロダクションに所属することになれば、きっと葉山さんと共演をすることだってあるはず。
それなのに、まるで内側から光を放つようなあの人の隣で、私は彼女に負けることなく輝ける自信がない。
だってスカウトの方の目に留まったのは七海先輩の魔法にかかっていた私だ。
彼の魔法がなければ、もしかしたら私なんて気にも留められなかったのかもしれないのに。

私は太陽のような先輩の光を受けて、たった一瞬だけ輝けただけ。
それは私自身の光じゃないのに、私は胸を張ってあの舞台に立てるというの……?



それからどうやって撮影現場を後にしたのかはよく覚えていない。
気がつくと、私はなぜか学校の前までやってきていた。