中でも特に、来年からモデル部門を新設するというプロダクションの方がとても熱心で、このあいだは自宅まで私と両親を説得しに来てくださったのだ。
お話を聞く限りはとても誠実で、真剣にモデルのお仕事のマネジメントをさせてほしいということだったけれど。

「とりあえず、期末テストが終わったら撮影の見学に行かせてもらうことになりました」

「ふぅん、じゃあ俺専属のモデルも卒業ってことか。ちょっと寂しいけど、それ以上に嬉しいな」

「まだ所属するかどうかは分からないですけど、前向きに考えています」

正直に言うと、スカウトのお話が来たときは信じられないような気持ちが大きかったが、素直に嬉しいとも思った。
だってそれは、何人もの大人が私に可能性や魅力を感じてくれたということなのだから。
先輩と出会ってから数ヶ月、彼のように自信を持って輝ける人になりたいと頑張ってきたけれど、その努力が目に見えて報われた気がして、私の気分は高揚していた。
けれど目まぐるしく変わってしまった自分を取り巻く状況に、一番着いていけていないのも私自身だ。
そんな私を心配してくれた件のプロダクションの方が、仕事内容を想像しやすいようにと見学の話をくださったというわけだ。

「まぁ、プロの現場なんてそうそうお目にかかれるものじゃないからな。いい経験になると思うし、じっくり見て勉強してこいよ」

「私も応援してるわ」

二人にそう言われると、すぐに臆しそうになる心がふっと和らぐ。
そうだ、きっと大丈夫。
この数ヶ月、変わりたいと思って自分なりに頑張ってきたんだもの。
胸を張って行ってこよう。
そう心に決め、期末テストが無事に終わった週末、ついに私は撮影見学に向かった。



「以前も申し上げましたとおり、うちのプロダクションは来年からモデル育成とプロデュース専門の部署を設立する予定なんです。8月からはそのモデル部門に所属していただく新人のオーディションも始まるので、今日はその告知用に使われるスチル撮影をしています」

撮影が行われるのは都内のスタジオだった。
以前スカウトに来てくださった男性の方が説明をしてくださり、彼の案内を受けながらスタジオの中に足を踏み入れる。
そこはたくさんの機材や道具でひしめいており、まさしく私が想像していたような世界が広がっていた。
室内を進んでいくと、すでにスタッフの方が撮影の準備を行っており、空気は少し張り詰めていて、例えるならばまるでバスケの試合前と同じような緊張感が漂っている。
そんななか、撮影スペースだけが開放的に明るく、照明に照らされて別世界のように輝いていた。

ここにモデルが立つのだ。

プロの活動する現場。
初めて目の当たりにする景色に、私の心は興奮で弾んでいた。
もしもこの先プロのモデルになれたら、私もあのきらめく場所に立てるのだろうか。

「あっ、その子が前に言ってたスカウトの子?」

撮影現場を前にあの場所へ立つ妄想をしていると、ふいに私のことと思わしき話をする声が聞こえた。

美亜(みあ)、ちょうどよかった。紹介するよ、こちらが佐倉礼さん」

振り返れば、そこには私と目線の変わらないくらいの長身で、すらりとした体型の女性が立っていた。
隣にいたスカウトの男性に紹介されぼんやりとしたのも束の間、弾かれたように頭を下げる。

「初めまして、佐倉です。今日は撮影の見学をさせていただきます。よろしくお願いします」

葉山(はやま)美亜です。よろしくね、礼ちゃん」