そう言い残して教室を出ていった和奏を見送り、私は一度自分の席に座った。
窓の外からはたくさんの賑やかな声が聞こえてくる。
たぶん、部員勧誘のためのチラシ配りが始まったのだろう。
覗いてみようと思い窓を開けると、春の穏やかな空気に乗って、元気のいい声がさらに明瞭に聞こえてきた。
玄関から正門へと続く道には、部員の勧誘に熱を入れる先輩たちが、片っ端から新入生にチラシを配っている。
「女バス、新入部員募集中でーす!」
その中でも私の耳が拾うのは、やはりバスケ部の声だった。
視線を移せば、女子バスケ部と書いてあるプラカードの周りに、たくさんの人が集まっているのが見える。
あそこにいるのは、西中でセンターをやっていた子。
あっちに見える先輩は、いくつもの高校からスカウトされていたという逸材だ。
この高校は有名なバスケの強豪校で、全国レベルの強さを誇っているため、中学時代に名の知れていた人が数多く見受けられる。
私だって、それを知ってこの高校に進学したいと思ったのだ。
ここのバスケ部でスタメンになって、あの人たちとプレーするために。
それなのに、どうして私だけがこんなところにいるのだろう。
どうしてこんなところで燻っていなくてはいけないの。
そんなどうしようもできない思いが、お腹の底からふつふつと沸いてくる。
不幸を嘆いたって何も変わらない。
そんなことは分かってる。
でも、そんなに簡単に受け入れられるわけ、ないんだ。
やがて堪えきれなかった涙がつっと頬を伝った。
これ以上見ていられるわけもなく、乱暴に窓を閉めて机に突っ伏す。
「どうして、私ばっかり……」
事故に遭ってバスケができなくなったと聞いてから、何度も何度も泣いた。
そのたび、自分の置かれた状況をきちんと理解しようともした。
俯いてばかりはいられない。
私が落ち込んでいては、家族や和奏に心配をかけてしまう。
だから笑っていようと思った。
「どうしてっ……!」
けれど、それでも諦めきれない。
私にはバスケしかなかったのに、どうしてそれさえも奪われなくてはならないの。
辛くて、悔しくて、血が出るくらいに唇を噛む。
希望に満ち溢れた人たちの姿を見たためか、涙はいつにも増して流れた。
誰もいない教室の中、声を殺しながらひたすらに泣く。
バスケができない私はただの木偶の坊だ。
そんな私に価値なんてない。
それならいっそ、このまま消えてしまいたい。
そう思った、瞬間だった。
突然、教室の引き戸がものすごい速さで開かれた音が聞こえた。
そんな音に驚いて顔を上げれば、引き戸のそばに、いつの間にやら知らない女の子の姿が見える。
たぶん、先ほどの音は彼女が出したものなのだろう。
「撒いたか……?」
彼女はまるで警察から逃げるスパイのように、引き戸の窓から廊下の様子を窺っている。
かくれんぼでもしているのかと思ったが、ここは高校だ。
小学生ならまだしも、校内でかくれんぼなんてするだろうかと思っていると。
「うわっ!」
「へっ!?」
振り向きざまに私の存在に気づいた彼女は、驚きにあふれた声を上げた。
その声に、私もまた驚かされる。
窓の外からはたくさんの賑やかな声が聞こえてくる。
たぶん、部員勧誘のためのチラシ配りが始まったのだろう。
覗いてみようと思い窓を開けると、春の穏やかな空気に乗って、元気のいい声がさらに明瞭に聞こえてきた。
玄関から正門へと続く道には、部員の勧誘に熱を入れる先輩たちが、片っ端から新入生にチラシを配っている。
「女バス、新入部員募集中でーす!」
その中でも私の耳が拾うのは、やはりバスケ部の声だった。
視線を移せば、女子バスケ部と書いてあるプラカードの周りに、たくさんの人が集まっているのが見える。
あそこにいるのは、西中でセンターをやっていた子。
あっちに見える先輩は、いくつもの高校からスカウトされていたという逸材だ。
この高校は有名なバスケの強豪校で、全国レベルの強さを誇っているため、中学時代に名の知れていた人が数多く見受けられる。
私だって、それを知ってこの高校に進学したいと思ったのだ。
ここのバスケ部でスタメンになって、あの人たちとプレーするために。
それなのに、どうして私だけがこんなところにいるのだろう。
どうしてこんなところで燻っていなくてはいけないの。
そんなどうしようもできない思いが、お腹の底からふつふつと沸いてくる。
不幸を嘆いたって何も変わらない。
そんなことは分かってる。
でも、そんなに簡単に受け入れられるわけ、ないんだ。
やがて堪えきれなかった涙がつっと頬を伝った。
これ以上見ていられるわけもなく、乱暴に窓を閉めて机に突っ伏す。
「どうして、私ばっかり……」
事故に遭ってバスケができなくなったと聞いてから、何度も何度も泣いた。
そのたび、自分の置かれた状況をきちんと理解しようともした。
俯いてばかりはいられない。
私が落ち込んでいては、家族や和奏に心配をかけてしまう。
だから笑っていようと思った。
「どうしてっ……!」
けれど、それでも諦めきれない。
私にはバスケしかなかったのに、どうしてそれさえも奪われなくてはならないの。
辛くて、悔しくて、血が出るくらいに唇を噛む。
希望に満ち溢れた人たちの姿を見たためか、涙はいつにも増して流れた。
誰もいない教室の中、声を殺しながらひたすらに泣く。
バスケができない私はただの木偶の坊だ。
そんな私に価値なんてない。
それならいっそ、このまま消えてしまいたい。
そう思った、瞬間だった。
突然、教室の引き戸がものすごい速さで開かれた音が聞こえた。
そんな音に驚いて顔を上げれば、引き戸のそばに、いつの間にやら知らない女の子の姿が見える。
たぶん、先ほどの音は彼女が出したものなのだろう。
「撒いたか……?」
彼女はまるで警察から逃げるスパイのように、引き戸の窓から廊下の様子を窺っている。
かくれんぼでもしているのかと思ったが、ここは高校だ。
小学生ならまだしも、校内でかくれんぼなんてするだろうかと思っていると。
「うわっ!」
「へっ!?」
振り向きざまに私の存在に気づいた彼女は、驚きにあふれた声を上げた。
その声に、私もまた驚かされる。