淡いベージュのそのスカートはプリーツが細かく、動くと控えめになびくのがとてつもなくかわいい。
鏡の前でくるっとターンをして揺れる裾の動きを楽しみながら、私は時計に目をやった。
「11時かぁ」
和奏の出番は午後からだ。
まだ時間に余裕はあるし、かわいい服に合わせて髪も簡単なアレンジをしておこうか。
そんなことを考えていると、突然スマートフォンの着信音が鳴った。
「和奏……?」
見れば、ディスプレイには麻生和奏の文字が表示されている。
どうやら和奏からの着信らしい。
いつもの彼女ならば発表会やコンクールの前は集中していて、電話をかけてくることなどないはずなのだけれど。
「もしもし?」
何かあったのだろうかと、不審に思いながら電話に出る。
すると向こうから、「礼……」とかすかに和奏の声が聞こえた。
「和奏? どうしたの?」
和奏のこんな気弱な声は、今まで聞いたことがない。
それだけで、彼女の身に何か重大なことが起こったのだと分かった。
「礼、どうしよう、私……」
「落ち着いて和奏。今どこにいるの?」
「会場の……となりの、公園……」
「分かった。すぐに行くから、そこで待ってて」
強く言いつけ、電話を切る。
心配で心臓が早鐘を打つのを感じながら、準備しておいたバッグを引っつかんだ私は、一目散に家を飛び出して和奏の元へと向かった。
コンクール会場である文化会館の敷地内には、小さな子供が遊べるような遊具が置かれた公園があったはずだ。
文化会館前でバスを降りた私は、足早に駆け、その公園の入り口を抜けた。
休日のためか、公園内は子供連れの人々の姿であふれている。
和奏はどこにいるのだろう。
「和奏ーっ!」
公園中をきょろきょろと見回しながら和奏を探す。
するとちょうどすべり台の横に設置してあったベンチに、この場所には似つかわしくない赤いドレス姿の人影が見えた。
楽譜を膝の上に置いて俯いているその人は、間違いなく和奏だ。
「和奏!」
「礼っ……」
声をかけて駆け寄ると、和奏はぱっと顔を上げた。
しかしそこにいつもの凛とした表情はなく、彼女は不安そうに体を縮こませている。
目の下にはクマがあり、顔色も悪い。
「大丈夫!? 何があったの?」
隣に座り、腕を回して和奏の肩をさすると、彼女は弱々しく首を横に振った。
「ごめん、大したことじゃないの。今日のコンクールにね、パパとママが来てくれることになったんだ」
「おじさんとおばさんが?」
「うん。ちょうど予定が合ったんだって、昨日連絡がきて」
「そうだったんだ……」
和奏の両親は各国を飛び回って活動をしているため、多忙でほとんど日本に帰ってくることがない。
だから彼女の発表会やコンクールには出席できず、いつも録画したものを見ていたはずだ。
和奏は昔からそのことを残念に思っていたが、反面、余計な緊張をしなくて済むのはいいと言っていた。
鏡の前でくるっとターンをして揺れる裾の動きを楽しみながら、私は時計に目をやった。
「11時かぁ」
和奏の出番は午後からだ。
まだ時間に余裕はあるし、かわいい服に合わせて髪も簡単なアレンジをしておこうか。
そんなことを考えていると、突然スマートフォンの着信音が鳴った。
「和奏……?」
見れば、ディスプレイには麻生和奏の文字が表示されている。
どうやら和奏からの着信らしい。
いつもの彼女ならば発表会やコンクールの前は集中していて、電話をかけてくることなどないはずなのだけれど。
「もしもし?」
何かあったのだろうかと、不審に思いながら電話に出る。
すると向こうから、「礼……」とかすかに和奏の声が聞こえた。
「和奏? どうしたの?」
和奏のこんな気弱な声は、今まで聞いたことがない。
それだけで、彼女の身に何か重大なことが起こったのだと分かった。
「礼、どうしよう、私……」
「落ち着いて和奏。今どこにいるの?」
「会場の……となりの、公園……」
「分かった。すぐに行くから、そこで待ってて」
強く言いつけ、電話を切る。
心配で心臓が早鐘を打つのを感じながら、準備しておいたバッグを引っつかんだ私は、一目散に家を飛び出して和奏の元へと向かった。
コンクール会場である文化会館の敷地内には、小さな子供が遊べるような遊具が置かれた公園があったはずだ。
文化会館前でバスを降りた私は、足早に駆け、その公園の入り口を抜けた。
休日のためか、公園内は子供連れの人々の姿であふれている。
和奏はどこにいるのだろう。
「和奏ーっ!」
公園中をきょろきょろと見回しながら和奏を探す。
するとちょうどすべり台の横に設置してあったベンチに、この場所には似つかわしくない赤いドレス姿の人影が見えた。
楽譜を膝の上に置いて俯いているその人は、間違いなく和奏だ。
「和奏!」
「礼っ……」
声をかけて駆け寄ると、和奏はぱっと顔を上げた。
しかしそこにいつもの凛とした表情はなく、彼女は不安そうに体を縮こませている。
目の下にはクマがあり、顔色も悪い。
「大丈夫!? 何があったの?」
隣に座り、腕を回して和奏の肩をさすると、彼女は弱々しく首を横に振った。
「ごめん、大したことじゃないの。今日のコンクールにね、パパとママが来てくれることになったんだ」
「おじさんとおばさんが?」
「うん。ちょうど予定が合ったんだって、昨日連絡がきて」
「そうだったんだ……」
和奏の両親は各国を飛び回って活動をしているため、多忙でほとんど日本に帰ってくることがない。
だから彼女の発表会やコンクールには出席できず、いつも録画したものを見ていたはずだ。
和奏は昔からそのことを残念に思っていたが、反面、余計な緊張をしなくて済むのはいいと言っていた。