「部活は午後からやるんだって。これからチラシ配りもあるから、新入生も残っていていいらしいよ」

「そうなんだ。和奏はどうするの?」

「今日はパスかな。このあとすぐにピアノのレッスンが入ってて」

「そっか」

なんともないように相槌を打つものの、“部活”という話題は少しだけ私の胸を締めつけた。
この高校にどんな部活があるのか、私はあまり知らない。
私が入りたかった部活は、ひとつだけだったから。

「じゃあ私はチラシだけもらいに行こうかな。和奏は先に帰っていいからね」

「分かった。……ねぇ、礼」

「ん?」

「やっぱり、バスケはもうできないの?」

神妙な顔つきで、和奏はそう言った。
和奏はずっとそのことを口にしなかったから、きっと気を遣ってくれていたのだろう。
彼女にはたくさん心配をかけてしまったのだから、本来ならば、これは私から話さなければならないことだったのに。

「……うん。少なくとも高校生のうちは」

重たい唇から紡がれる言葉は、自分でもとても苦々しいものだと思った。
だからせめてもと、不器用に笑みをつくる。

――バスケはもうできないの?

少なくとも、叶えたかった夢はもう手の届かないところに行ってしまった。

バスケットボールは私の人生のすべてだった。
小学生のときに出会い、その楽しさに目覚め、暇さえあればボールに触れていた。
コンプレックスだった高い背丈も、バスケをやるためにあるのだと思えば好きになれた。
練習を励むたび、結果はきちんと着いてきた。
上手くなることが楽しくてしょうがなかった。
私はこのスポーツをやるために生まれてきたのだと、本気でそう思っていた。
あの、事故の日までは。

「……もう、前みたいに動けるかどうかすら分からないんだ」

事故で負った骨折や内臓の損傷は、選手生命に関わると言われた。
普通に生活できるようにまで戻ったとしても、今の体では、以前のような激しい練習には耐えられないかもしれない。
もう一度バスケがしたいと思うなら、長い目で見て、高校生のうちは諦めるべきだと。
高校生になったら、強豪校のスタメンになってインターハイに出る。
幼いころからの私の夢は、たった一瞬の出来事のせいで、あっけなく散ってしまったのだ。

「そうだったのね」

「和奏にはたくさん心配かけたのに、ずっと言えなくてごめん」

「ううん、私のことはいいの。それにね、礼には嫌なふうに聞こえるかもしれないけど……」

そこまで言うと、和奏は目元にうっすら涙を浮かべた。
その涙に、胸が苦しくなる。

「礼が事故で重体になったって聞いたとき、私、命だけでも助かってって思ったの。だからここまで元気になってくれただけで、本当に嬉しいんだ」

「うん。ありがと、和奏」

和奏の言うとおり、命が助かっただけでもよかったと思うしかない。
今の状況を恨んでも何も変わらないし、何も始まらないのだ。
心配をかけてしまった人たちのためにも、私は早く元気にならなくては。

「私は大丈夫だよ。せっかく高校に入学して新しい生活が始まるんだもん。何かほかに夢中になれそうなものを探してみる」

「……そうよね。礼が前向きなら、私も応援してる」