かわいい服に、かわいい靴。
手を伸ばすことはなかったけれど、心の中でずっと憧れていたものたちが今、私の手の内にある。
けれども怖気づかずに笑えるのは、やっぱり先輩のおかげなのだ。

「おらっ、自信持てよ! 礼はこの俺様が見出した女だぞ!」

「はいっ!」

私の服を揃い終えると、先輩は「いつもモデルをやってくれているお礼」と言って、購入したすべてのものをプレゼントしてくれた。
さすがに悪いと思って断ったものの、「礼の働きに比べたら安いもんだ」と押し切られてしまい、私はいただいた服をありがたく着させてもらったのだった。
それから本来の目的である撮影用の衣装を買いつけるため、先輩行きつけのセレクトショップに行くことになったのだが。

「七海ちゃんじゃない!」

駅ビルを出てすぐのところで、突然、道端にいた見知らぬ女性に声をかけられた。

「ああ、こんにちは。お久しぶりです」

先輩は彼女に気づくと、親しげに挨拶を返した。
女性は細身のスーツを着た髪の長い人で、近くにはカメラのような機材を持った男性も数人ほどいる。

「撮影ですか?」

「ええ。初夏に出す特別号用にスナップ写真を撮ってるの。よかったら七海ちゃんも……あら」

先輩の後ろで会話をする二人の様子を眺めていると、ふと女性の視線が私の方へと向いた。

「綺麗な子を連れてるわね! 彼女、芸能人?」

「学校の後輩ですよ。俺専属のモデルをやってもらってるんです。美人でしょ」

「えっ、じゃあまだ素人なの? こんな子もいるのねぇ」

見ず知らずの人に褒めてもらえたようで、私は嬉しさと恥ずかしさから、先輩の影に隠れるように彼のそばに寄った。
もっとも私は先輩よりも10センチ以上背が高いのだから、ほとんど隠れることはできないのだけれど。

「どなたですか?」

「ああ、若者向けのフリーペーパーを作ってる会社の編集さんだよ。撮影のとき、たまにヘアメイクのアシスタントをさせてもらってるんだ」

ずっと気になっていたことを小声で尋ねると、先輩はとても簡潔に答えてくれた。
どうやら先輩はフリーペーパーに掲載されるモデルさんのヘアメイクをお手伝いするバイトをしているらしい。
たまには自らがモデルをすることもあるそうだ。
それもこれも、ヘアメイクの世界を少しでも多く知るためだという。
将来の夢に向かって、先輩は高校生である今の内から邁進しているのだ。
そんな一生懸命なところが、彼がきらきらして見える理由のひとつなのかもしれない。
そんなことを考えていると、編集者さんだというその女性が「そうだわ」と思いついたように声を上げた。

「よかったら二人とも撮影に協力してもらえないかしら。あなたたちなら誌面で一番大きく載せるわよ」

「えっ?」

「いいっすよ。喜んで」

「えええっ!?」

降ってわいた話に、思わず声が裏返る。
先輩はともかく私はスナップ写真なんて撮られたことがないし、勝手も何も分からない。
と言うか、不特定多数の人が見るフリーペーパーに私なんかが載るなんて。