「つまり素材のよさをまったく活かせてないんだよ! そんなことしてたらもったいねーだろ? 俺の美意識にも反する! ったく、いいからさっさと行くぞ!」

先輩の勢いに気圧された私は、それから引きずられるようにして彼に連れられていった。
脇目も振らずに先輩が向かった先は、駅に併設されたビルの中にあるファッションフロアだ。
女性物のブランドがずらりと並ぶその中で、先輩はどことなく上品でフェミニンなお店を選び、やはり臆せず進んでいく。
そんな彼の後ろを、私は居心地悪く思いながら着いていった。

「こんだけあるとどれにするか迷うよなぁ。なあ、礼はどんな服が好きだ?」

「えっ! 私ですか?」

「当たり前だろ。礼の服を選んでるんだから」

突然先輩から振られた話題に、私はしどろもどろになってしまった。
ここ数週間で女性誌を読み漁り知識を蓄えたとはいえ、それらはみな付け焼き刃でしかない。
これらの服の中でどんなものが自分の好みなのか、どんなものが自分に似合うのか、私にはまだ分からないのだ。
慌てて周囲を見回してみたものの、目に映るのはかわいらしいスカートやワンピースばかりで、そういった物に免疫のない私には目眩がするような心地しか与えてくれない。

「うーん、えーっと、露出が少なくて……動きやすい服が好きです。あと、あんまりかわいらしいのはちょっと」

「ふんふん、なるほどね。でも礼ならこういうワンピースも似合うと思うけど」

そう言いつつ先輩が私に宛てがったのは、レース地のワンピースだった。
色は薄いアイボリーで素材は柔らかい。
裾に向かって緩やかに広がるようなシルエットは、まさに可憐といった感じの印象だ。
と言うか、これでは私の注文と真逆の品ではないか。

「むっ無理です! 似合う気がしません!」

「ははっ! まあ、今までメンズ服ばっかり着てきた礼にはちょっとハードルが高いか」

「ちょっとどころじゃないですよ!」

ワンピースなんて物は生まれてこの方袖を通したこともないのだ。
それに一般的な女の子が着たら膝丈くらいなのだろうが、私が着たら裾が腿のところまで来るだろう。
そんな露出、耐えられそうにもない。

「じゃあ、これなんかどうだ? これなら今履いてるデニムにも奇跡的に合いそうだし」

かわいいワンピースに対して戦慄する私へと先輩が次に選んでくれたのは、ふわふわとした素材の白いブラウスだった。
丈が少し短めで、袖にコットンレースがあしらわれている。
これも見た目はかなり女の子らしいけれど。

「デニムの裾をロールアップして、華奢なアクセサリーを合わせる。ベルトも細めのものにしよう。……よし、こんな感じか」

しかし先輩によってあれよあれよという間に小物を揃えられると、白いブラウスは一変し、ボーイッシュだけどかわいらしいコーディネートの一部になった。
ブラウス自体の首回りもそれほど開いていないし、袖丈もちょうどよく、肌が見えすぎることはないだろう。
デニムは今まで自分が履いていたものだから丈を気にする必要もないし、これなら私にも合うかもしれない。
どうやら彼の魔法はメイクだけではなく、洋服にも通用してしまうらしい。

「先輩すごいです! さすがです!」

「まーな。でも俺様なら当然だろ?」

先輩のこぼす不敵な笑みに、こくこくと首を縦に振る。
どうしてこんなにもすばやく思いどおりのコーディネートが浮かぶのだろう。
やっぱり彼はすごい人だと再確認しながら、私はあつらえられた洋服たちを見つめた。