「とりあえず、何かあったらすぐ私に相談すること! 分かったわね!」

「はぁい」

和奏の了承も得ることができ、かくして私と先輩のお買い物は決行されることとなった。



「うわあ……」

約束の日はすぐにやってきた。
私は先輩に言われたとおりに駅の南口へと向かったのだが、ゴールデンウィーク真っ只中の駅は当然のように大勢の人でひしめいていた。
何が何やら分からないほどの状況で、これでは待ち合わせも難しいのではないかと慄いたものの、どうやらそれは杞憂なことのようだったらしい。

「七海先輩!」

それもそのはず、先輩の美しさは校外でも健在だったのだ。
立ち姿だけでも道行く人々の視線を奪っていた先輩は、その圧倒的なオーラによって半径2メートル以内に人を近づかせず、彼の周りに空いた不自然な空間のお陰で、私は苦もなく見つけ出すことができたというわけだ。
先輩の偉大さを改めて感じつつ、上機嫌で彼の元へと走り、「おはようございます」と声をかける。
すると、いつもの笑顔で先輩は振り向いてくれたのだが。

「お前、正気かっ!?」

開口一番先輩が発したのは、そんな思いもよらぬ言葉だった。

「えっ! な、なんですかいきなり」

「ちょっと見せてみろ……うわあ、やっぱりそうだ……」

私の姿を見るなり青ざめた顔をした先輩は、なぜかそのかわいい顔を鬼のように歪ませていった。
いったい何がどうしたのだろうと困惑していると、先輩はおそるおそるといった様子で口を開く。

「Tシャツにデニムにパーカーにスニーカー! 礼が着てるやつ、全部男物だろ」

「はい、そうですよ?」

「まじかよ……」

不可解な先輩の指摘に調子外れな声で答えた私は、今一度自分の着ている服を確認した。
ブルーのデニムに白地のロゴTシャツ、グレーのパーカーと動きやすいスニーカー。
それらは先輩の言うとおり、一般的に男性用と言われるものだった。
と言うより、私は制服以外に女性が着るような服を持っていないのだ。
私に合うサイズの服が女性物には少ないことと、そもそも女の子たちが着るようなかわいらしい服がこの体躯では似合わないということが、私が男性物を着る要因である。
それがどうしたのだろうかと思っていると、先輩は大きくため息を吐きながら頭を抱えた。

「洒落っ気がねーのは知ってたけど、まさかここまでとは……」

「先輩?」

「予定変更。まずは礼の服を変えるぞ」

青ざめた顔から打って変わって真剣な眼差しになった先輩は、そう宣言するなり私の腕を取った。
しかし今日の目的は衣装探しなのだ。
けして私の私服を探しに来たのではない。

「先輩、どうしたんですか? いいですよ私の服なんて」

「はぁ!? なんもよくねーだろ!」

そう思って静止の言葉をかけたものの、先輩はさらに激昂し、まるで瞳の中に炎が見えそうな勢いで私に詰め寄った。

「女子がオシャレの一環としてメンズ服を取り入れることはある。でも礼のは違うだろ! たとえるなら高級食材に泥をかけて食べてるようなもんだ!」

「こ、高級食材に泥……?」