「最初だって女子のフリをして礼を騙していたわけだし」
「騙すなんて。あの格好のまま普段の口調で話しかけたら驚かせちゃうと思ったんだよ」
「その話も胡散臭いわ。だいたいどうして学校でまで女装してるのよ? 心が女性ってわけでもないんでしょう?」
「え、えっと……でも似合ってるし……」
あまりにも自然だから深く考えたことはなかったけれど、言われてみれば七海先輩がどうして女装をしているのかを私は知らない。
彼は正しく制服を着こなすのは自分の美意識に反するらしく、校則を大幅に破ったアレンジをするため、毎日のように先生に叱られているらしいのだが、それでも頑なに女装を辞めないそうなのだ。
そこまでして続けるのには、何か理由があったりするのだろうか。
「おっ、なんだ俺の話か?」
「わっ! 七海先輩!?」
そんなことを考えていると、ふいに廊下側の窓から先輩がひょっこりと姿を現した。
「どうしたんですか? 1年の教室まで」
「もちろん礼に会いに来たんだよ」
そう言って笑う先輩は、そのかっこいい口調とは対照的に、今日も今日とて可憐な女装姿だ。
本日は学校指定のブレザーではなく、ブラウスの上にカラフルなパーカーを羽織り、黒髪のウィッグをツインテールにしている。
やはり先生には確実に叱られそうではあるけれど、相変わらず最上級にかわいらしい。
「今朝いいこと思いついちまってな! さっそく礼にアポを取ろうと思って」
「いいこと、ですか?」
「ああ。来月のゴールデンウィークのあいだで暇な日があったら買い物に付き合ってほしいんだ」
「買い物……」
私が先輩の買い物に付き合うことが、彼にとってのいいことなのだろうか。
先輩の話が繋がらず、考えを巡らせていると。
「なっ! いいだろ? お願いっ!」
私がためらっていると思ったのか、先輩は両手を合わせながら小首を傾げ、おねだりのポーズを取った。
そのまま黒目がちな瞳をうるうると潤ませ、私を見上げている。
ああ、もう、めちゃくちゃかわいい!
惜しげもなく振る舞われる先輩のかわいさに当てられた私は、慌てて両手で頬を覆い、熱くなる顔を隠した。
先輩からこんなふうに上目遣いでお願いをされて、きっぱりと断れる人などいるのだろうか。
このかわいさの前ではどんな無理難題だって叶えたくなりそうだ。
「はい! 荷物持ちでもなんでもします! 任せてください!」
「ちょっと待ちなさい、礼!」
勢いそのままに頷いたのも束の間、先輩のかわいさに屈しない和奏の潔い声が響き、私は目を瞬かせた。
「あんたはこいつの下僕か何かなの!?」
「へっ?」
下僕という、普段は耳にしないような言葉に困惑していると、彼女はしっかりしなさいよとその細い腕で私の肩を掴み揺さぶった。
いきなりどうしたのかと私がさらに混乱するなか、その様子を見ていた七海先輩が小さくため息を吐く。
「ったく、麻生には関係ねーだろ」
「関係なくなんかない! 私は礼の親友なんだから!」
先輩の言葉にも噛みつく和奏は、私を揺さぶっていた手を止め、今度は腕組みをして先輩と向かい合った。
「騙すなんて。あの格好のまま普段の口調で話しかけたら驚かせちゃうと思ったんだよ」
「その話も胡散臭いわ。だいたいどうして学校でまで女装してるのよ? 心が女性ってわけでもないんでしょう?」
「え、えっと……でも似合ってるし……」
あまりにも自然だから深く考えたことはなかったけれど、言われてみれば七海先輩がどうして女装をしているのかを私は知らない。
彼は正しく制服を着こなすのは自分の美意識に反するらしく、校則を大幅に破ったアレンジをするため、毎日のように先生に叱られているらしいのだが、それでも頑なに女装を辞めないそうなのだ。
そこまでして続けるのには、何か理由があったりするのだろうか。
「おっ、なんだ俺の話か?」
「わっ! 七海先輩!?」
そんなことを考えていると、ふいに廊下側の窓から先輩がひょっこりと姿を現した。
「どうしたんですか? 1年の教室まで」
「もちろん礼に会いに来たんだよ」
そう言って笑う先輩は、そのかっこいい口調とは対照的に、今日も今日とて可憐な女装姿だ。
本日は学校指定のブレザーではなく、ブラウスの上にカラフルなパーカーを羽織り、黒髪のウィッグをツインテールにしている。
やはり先生には確実に叱られそうではあるけれど、相変わらず最上級にかわいらしい。
「今朝いいこと思いついちまってな! さっそく礼にアポを取ろうと思って」
「いいこと、ですか?」
「ああ。来月のゴールデンウィークのあいだで暇な日があったら買い物に付き合ってほしいんだ」
「買い物……」
私が先輩の買い物に付き合うことが、彼にとってのいいことなのだろうか。
先輩の話が繋がらず、考えを巡らせていると。
「なっ! いいだろ? お願いっ!」
私がためらっていると思ったのか、先輩は両手を合わせながら小首を傾げ、おねだりのポーズを取った。
そのまま黒目がちな瞳をうるうると潤ませ、私を見上げている。
ああ、もう、めちゃくちゃかわいい!
惜しげもなく振る舞われる先輩のかわいさに当てられた私は、慌てて両手で頬を覆い、熱くなる顔を隠した。
先輩からこんなふうに上目遣いでお願いをされて、きっぱりと断れる人などいるのだろうか。
このかわいさの前ではどんな無理難題だって叶えたくなりそうだ。
「はい! 荷物持ちでもなんでもします! 任せてください!」
「ちょっと待ちなさい、礼!」
勢いそのままに頷いたのも束の間、先輩のかわいさに屈しない和奏の潔い声が響き、私は目を瞬かせた。
「あんたはこいつの下僕か何かなの!?」
「へっ?」
下僕という、普段は耳にしないような言葉に困惑していると、彼女はしっかりしなさいよとその細い腕で私の肩を掴み揺さぶった。
いきなりどうしたのかと私がさらに混乱するなか、その様子を見ていた七海先輩が小さくため息を吐く。
「ったく、麻生には関係ねーだろ」
「関係なくなんかない! 私は礼の親友なんだから!」
先輩の言葉にも噛みつく和奏は、私を揺さぶっていた手を止め、今度は腕組みをして先輩と向かい合った。