高校に入学して、早3週間が経つ。
去年の事故以来ずっと沈んでいた私の心はというと、七海先輩との風変わりな出会いのお陰で、劇的と言えるような変化を得ていたのだった。

「へぇ。でかい夢を語るだけあって、腕はそこそこあるみたいね」

「でしょう!?」

春うらら、お昼休み。
前後の席に座り合った私と和奏は、お弁当をつつきながら小さなフォトアルバムを眺めていた。
アルバムの中に収まっているのは、すべてが私をモデルにした写真だ。
当然どの私も顔のつくりは同じであり、写真を撮られ慣れていないせいで、どれもほとんど変わらないような無表情で写っている。
それなのに、一枚一枚の雰囲気がまるで別人のように違っているのだ。

「本当にすごいんだよ、七海先輩!」

それは先輩が私に施したヘアメイクのお陰だった。
七海先輩と出会った日から、私はほぼ毎日のように彼専属のモデルをするようになり、この写真たちは記録用に撮っているものなのだ。

「毎回目を開けるたびに、いつもとはまったく違う私が鏡に映るの。まるで本物の魔法にかかったみたいなんだよ……!」

あの感動を思い出しながら、うっとりと語る。
最初に出会った入学式の日、凛々しくかわいげのない私の顔を先輩は変えてくれたけれど、彼の力はその程度のものではなかったのだ。
ときには大人っぽくクールに、ときにはナチュラルに可憐な感じで、ときにはハードに攻めたようなメイク……と、いとも簡単に私を変身させていく。
それはさながら、おとぎ話に出てくる魔法使いのように。

「まぁ、礼がオシャレの楽しみに目覚めたってのはいいことよね」

「えへへ」

「でもねぇ。そこにある大量の雑誌は、さすがに買いすぎじゃないかしら? 内容が被ってるところも多いでしょう?」

すると和奏は、私の机の横にぶら下がっている袋を指差した。
そこに入っているのは女性向けファッション雑誌やメイク雑誌、合わせて6冊。
生まれてから一度も手にしたこともなかったそれらは、私が本屋さんで照れくささに駆られながら購入したものだ。

「これはね、勉強用なの」

「勉強?」

「せっかく綺麗にしてもらっても、モデルの私がこのままじゃダメだと思って」

何も知らないまま座っているだけなら、人形にだってモデルはできるのだ。
どうせやるなら少しでも先輩の役に立ちたいと考えた私は、独学でモデルの勉強をしていた。
この雑誌たちは娯楽用ではなく、いわば教科書みたいなもので、中に載っている女の子の目線や表情の作り方を学んだり、ファッションやメイクの基礎を覚えたりすることに使っている。
この3週間で、オシャレについてほとんど知らなかった私も、世間の女子高生並みの知識くらいは身についたはずだろう。

「そういうことだったの。相変わらず真面目ね」

「そうかなぁ?」

「まぁ、礼が楽しんでるなら何よりだけど」

さらさらのポニーテールを揺らして、和奏がホッとしたように笑う。
その笑顔を見て、私も釣られるように笑うと。

「でも私、やっぱりあいつのことはまだ信じられないから」

今の笑みは一体どこへやら。
打って変わって和奏はその整った顔を思い切り歪め、眉間に皺を寄せた。
あいつ、とは七海先輩のことだ。
和奏はどうやら私が先輩と関わることを手放しで喜んではいないらしく、ことあるごとにこうして釘を刺してくる。