見上げた空は青く透きとおった、雲ひとつない快晴だった。
入学式というハレの日にはふさわしい天気だろう。
校舎を囲むように植えられた桜も、今日という日に彩りを添えるように咲き誇っている。
花びらがひらひらと舞い散るなか、真新しい制服に身を包んだ新入生たちは、続々と校舎へ入っていった。
この高校で、新しい学校生活が始まる。
誰もが期待に胸を弾ませていた。
……きっと、私を除いては。
「ほんと、間に合ってよかったわよね」
突然聞こえたそんな声に、ハッと我に返る。
それは私の隣を歩いていた親友の和奏の声だった。
「新生活って始めが肝心なのよ。乗り遅れると厄介なことも多いし」
その言葉を聞いた私は一瞬だけ、和奏は何を話しているのだろうかと戸惑ってしまった。
しかし足に響いた違和感によって、すぐさまその訳を思い出す。
「まだ完治ってわけじゃないけどね」
「でも、回復はかなり早い方なんでしょう?」
「うん。お医者さんにも“驚異のスピードだ”って言われちゃった」
私がおどけたように言うと、和奏は目を丸くしてから遠慮がちに笑った。
そんな彼女の表情を見て、ホッと息をつく。
それから私は制服のスカートから伸びる、傷ついた自分の足を見つめた。
私の体に響く違和感の理由。
それは数ヶ月前、交通事故にあったせいだった。
去年の冬、ちょうどスポーツ推薦の面接を終えた帰り道のこと。
歩道を歩いていた私は、居眠り運転をしていた車にはねられたのだ。
幸い命は助かったものの、一時は意識不明になるまでの重体だったらしく、目が覚めると至るところに大きな怪我をしていた。
しかし脳や脊髄の損傷は免れたため、麻痺はなく、今では難なく歩けるようにまでなっている。
和奏の言ったとおり、入学式にだって間に合った。
このまま治れば、日常生活に支障は出ないだろう。
「私も礼が一緒じゃなくちゃつまらないもの。せっかく高校でも同じクラスになれたんだし」
和奏の揺れるポニーテールを眺めながら「ありがとう」と返すと、彼女もゆっくりと頷いた。
大丈夫、私、きちんと笑えてる。
今抱えている悲しみだって、きっといつか、時間が解決してくれるはずだ。
「あー、もう。先生たちったら話が長いんだから」
「ちょっと疲れちゃったね。まぁ、最初のうちだけだよ」
それから私たちを含めた新入生は、入学式やオリエンテーションをつつがなく済ました。
高校は中学よりも生徒数が多く、校舎もその分だけ広かったが、それほど変わったところはないように見える。
知らない人ばかりの環境でも、和奏がいれば心強い。
不安なんてなかった。
かと言って、期待をするようなこともなかったけれど。
「礼は部活見学していく?」
「えっ?」
12時で放課となり帰る支度をしていると、和奏はふいにそんなことを言いだした。
「でも今日、先輩たちはお休みだったよね?」
在校生は今日までが春休みで、明日からが登校日だ。
だから校舎にいるのは新入生と、生徒会などの一部の生徒だけのはず。
入学式というハレの日にはふさわしい天気だろう。
校舎を囲むように植えられた桜も、今日という日に彩りを添えるように咲き誇っている。
花びらがひらひらと舞い散るなか、真新しい制服に身を包んだ新入生たちは、続々と校舎へ入っていった。
この高校で、新しい学校生活が始まる。
誰もが期待に胸を弾ませていた。
……きっと、私を除いては。
「ほんと、間に合ってよかったわよね」
突然聞こえたそんな声に、ハッと我に返る。
それは私の隣を歩いていた親友の和奏の声だった。
「新生活って始めが肝心なのよ。乗り遅れると厄介なことも多いし」
その言葉を聞いた私は一瞬だけ、和奏は何を話しているのだろうかと戸惑ってしまった。
しかし足に響いた違和感によって、すぐさまその訳を思い出す。
「まだ完治ってわけじゃないけどね」
「でも、回復はかなり早い方なんでしょう?」
「うん。お医者さんにも“驚異のスピードだ”って言われちゃった」
私がおどけたように言うと、和奏は目を丸くしてから遠慮がちに笑った。
そんな彼女の表情を見て、ホッと息をつく。
それから私は制服のスカートから伸びる、傷ついた自分の足を見つめた。
私の体に響く違和感の理由。
それは数ヶ月前、交通事故にあったせいだった。
去年の冬、ちょうどスポーツ推薦の面接を終えた帰り道のこと。
歩道を歩いていた私は、居眠り運転をしていた車にはねられたのだ。
幸い命は助かったものの、一時は意識不明になるまでの重体だったらしく、目が覚めると至るところに大きな怪我をしていた。
しかし脳や脊髄の損傷は免れたため、麻痺はなく、今では難なく歩けるようにまでなっている。
和奏の言ったとおり、入学式にだって間に合った。
このまま治れば、日常生活に支障は出ないだろう。
「私も礼が一緒じゃなくちゃつまらないもの。せっかく高校でも同じクラスになれたんだし」
和奏の揺れるポニーテールを眺めながら「ありがとう」と返すと、彼女もゆっくりと頷いた。
大丈夫、私、きちんと笑えてる。
今抱えている悲しみだって、きっといつか、時間が解決してくれるはずだ。
「あー、もう。先生たちったら話が長いんだから」
「ちょっと疲れちゃったね。まぁ、最初のうちだけだよ」
それから私たちを含めた新入生は、入学式やオリエンテーションをつつがなく済ました。
高校は中学よりも生徒数が多く、校舎もその分だけ広かったが、それほど変わったところはないように見える。
知らない人ばかりの環境でも、和奏がいれば心強い。
不安なんてなかった。
かと言って、期待をするようなこともなかったけれど。
「礼は部活見学していく?」
「えっ?」
12時で放課となり帰る支度をしていると、和奏はふいにそんなことを言いだした。
「でも今日、先輩たちはお休みだったよね?」
在校生は今日までが春休みで、明日からが登校日だ。
だから校舎にいるのは新入生と、生徒会などの一部の生徒だけのはず。