不審がって咲桜の視線の先を見る。
そこには、着物姿の朝間箏子が玄関を開けて出るところだった。
咲桜を見て、それから気づいたように俺の方も見て来た。
こちらからお辞儀をすると、箏子は優美な動作で礼を返して来た。
こんな時間にどうしたんだろうと瞳を離せないでいると、箏子さんは咲桜の方に歩いていき、何か厚い紙のようなものを渡している。
届け物? 咲桜はそれを受け取って、九十度に頭を下げた。
声までは聞こえないが、箏子さんも早く家に入るように言ったのか、咲桜はもう振り返らずに扉に消えた。
箏子さんはまた俺を見て――先ほどよりは軽い礼をして、朝間の家に入って行った。
――敵を見る眼差し、だった。
経験上、そういったものを目にする機会が多かったからわかる。
箏子さんも朝間先生同様、俺を敵対視しているのか。違う。――箏子さんと朝間先生の瞳は重ならない。
朝間先生は咲桜溺愛のあまり、奪っていく俺を敵視している。
俺を見て来た箏子さんの瞳は、異質なものを見る瞳だった。
「………」
咲桜が、近所の人に疎まれていると辛そうに言葉したことがある。
前後の話の中に消えてしまったけれど、その折箏子さんの名を口にしていた。
「―――」
咲桜。お前は、そこにいて大丈夫なのか? ――……咲桜?
+++
休日に吹雪のところにいると、スマートフォンが着信を告げた。
「流夜―、話すんなら外でねー」
吹雪に注意されたが、表示された名前を見て出る気をなくした。
なんで休日にまで――咲桜の関係のないところで――この人と話さにゃならん。
しかし、いつまでも切れる様子のない着信音。
少しの疲弊を口から吐き出し、応答した。
「もしも
『なんですぐ出ないんですか!』
怒られた。相当ご立腹のような咲桜の母代りだが、淡々と答える。
「すみません。あなたと話す理由がなかったもので」
『バカげたこと言ってないですぐにうちに来てください。咲桜ちゃんがシメられてしまいそうです』
直後、吹雪に断りもなく駆け出していた。