敬語を排した冷えた声音。

そこまで大きく響いたわけではない私の一言が氷の矢のように場を冷やした。

頼は変わりないけど、笑満は私をおさえようと焦って腕を摑んで、先輩は驚きからだろうか、目を見開いた。

私は笑満の手を振り払うように腕を組んだ。

「さ、咲桜、そこまででやめ――

「次笑いやがったら絆さん奪(と)るよ」

感情のない声にか、降渡さんは口元を歪めた。愉快そうに。

「……最後の、咲桜ちゃんが言うと冗談に聞こえないね。ごめんね、でも」

トン――指先で軽くカウンターを弾いた。

「笑い飛ばせるモンは笑い飛ばしていーんだよ。重苦しく話したって一つも解決しない。それは咲桜ちゃんがよくわかってるよね?」

ゾクッと背筋が粟立った。

少し前に、私が流夜くんに話したこともそれだ。――私の出生。

降渡さんは少し身を屈めて囁いた。遙音先輩に聞こえないように。

「――ご両親に、俺らがお膳立てはするし出来る。やるべき立場を俺たちは選んだ。でも、最後を詰めるのはこいつなわけ。りゅうの考えがわからない咲桜ちゃんじゃないよね?」

いつもと変わらない笑みを浮かべているのに、瞳の光が全然違う。

薄い闇を張り巡らしている中に立たされている気分になる。

違う、薄い闇がめぐっているのだと、その光で気付かされた。

――三人に感じていた、隔絶(かくぜつ)の見えない壁の向こうに、刹那振り向いた降渡さんの微笑が見えた気がした。

しかし次の瞬間には、いつもの『降渡さんの表情』で先輩の頭に手を置いた。

「遙音。お前も彼女の親友にかばわれてどうすんの。強い子はどうしたって誰だって護っちゃう思考になるんだから、お前がしっかりしていないと」

強い子。

……それが差すのは私か。憮然と口を結んだ。

しょうがないじゃん。護りたいんだから。護りたいから力を手に出来るよう生きて来た。

降渡さんはぽんぽんぽんと先輩の頭を叩く。

「特にねー咲桜ちゃんはねー。啖呵切るタイミングといい台詞といい、在義さんそっくり。でも、」

と、降渡さんは少し間を置いた。