「父さんが依頼したことだと聞きました。宮寺先生が、結果のことで悩まれていたとも、尊さんから聞きました。……そのような思いをさせて、すみませんでした」

「――そんな、謝るのは俺の方です。倫理違反のような真似をしたのは俺です」

私の嘆きの様子や、流夜くんと別れなければならなかった原因を作ったこと、宮寺先生が思い悩んでいることを尊さんから聞いていた。それでも。

「いえ……。何があってもいつであっても、父さんはいつか知っていたことだと思います。そうしたら、流夜くんや私も知らずにはいられなかった。……それが今であったことは、せめてものことだと思います」

「………華取さん、」

「大丈夫です。流夜くんは『私』を否定しませんでした。そんな人だからすきになったと思うんです。私も、どうあっても流夜くんでないと駄目だと思い知りました。――だから、追うことを決めました。……宮寺先生のされたことの良し悪しは、私にはわかりません。でも、本当の最悪でも、今で良かった。それだけは、真実(ほんとう)です」

宮寺先生を責める気持ちを抱いたことはなかった。

桃子母さんのことも、父さんならいつか知っていたはずだ。

それを暴いてしまったのが、たまたま宮寺先生だっただけで。もしかしたら尊さんだったかもしれない。

今、このタイミングで、追いかける道を選べるときであったことが、せめてもの幸いだったと思う。

「……華取さん、……すみませんでした。俺のしたことは、間違いでもあるので、許せることでも謝らせてください」

今度は宮寺先生が深く頭を下げた。

……ひとつ、心に漂っていたものが融けていく。少しだけ、泣きたくなった。

「……先生、もしよろしかったら勉強教えてくれませんか? ご存知かと思いますが、私、大学へは行きません。行政書士になるための勉強をしてます」

そうお願いすると、宮寺先生は虚を衝かれたような顔をしたあと、唇を噛んだ。そして柔らかい笑みを見せた。

「勿論です。俺に出来ることなら、何でも」

――私の出来るゆるし方のひとつ。

自分に力を貸してほしい。

流夜くんを追うために。

「今、吹雪さんと降渡さんもいるんです。入って行かれませんか?」

「あ、じゃあ――」

私に呼ばれて、宮寺先生も《白》へと向かった。