三月。
龍さんと遙音双方から、遙音が龍さんの養子になることが決まったと報告された。
俺も以前から――二人がそれを口にする前から――そんな気配は感じていたので、歓迎だった。
龍さんが遙音を息子に、跡継ぎにと望み、遙音も父というべき人が出来る。
どちらにとっても良い話だ。
二人の総意でもある。
一方、在義さんと朝間先生の仲を、咲桜と二人で企んでいるが……なかなか進まない話だった。
周りがどうお膳立てても、結局は二人の問題だからか。
……自分と朝間先生の仲が最悪なのはこの際棚上げだ。
在義さんが結婚をしないのは、朝間先生がどうとかではなく、ただ自分の血を残したくないだけではないかと俺は考える。
――呪術と傀儡(くぐつ)の一族、華取の唯一の生き残り。
『華取』は、歴史の中で政治を裏から操る大家の、駒の一つだったらしい。
呪術と傀儡術を用いて、主人格たる家に仕えて来た。
それがいつか、華取自身が主を傀儡(かいらい)として操る立場にまでなり――一人の本家の嫡子によって、火の中で全滅させられた。
末弟を除いて。
難儀だ。
在義さんが家の再興なんかを考える人でなくてよかったと思う一方、だからこそ朝間先生の想いは叶わない。
あそこまではっきり好きだと宣言されても何もしない在義さん。
俺が踏み込めるのはここまでなのだろうか……。
――明日は修了式。もうすぐ年度が終わる。
俺は、藤城を離れる。……咲桜のもとを、離れる。