そういえば、幼稚園の卒園文集で、私と春馬は将来の夢を書いた。まだ子供だったから、なりたいモノになれるかなんてわからないのに、それが、当たり前のようになれるって信じてた。

ーーーーもうずっと、忘れてしまっている、遠い昔の、おままごとみたいな夢。

「あぁ、だめだ、全然思い出せないし」

どうせ、お花屋さんとかでしょーよ。平凡な私が思いつきことなんてさ。口を尖らせてる私を見ながら、春馬が笑った。

「真理亜らしいな」

うなじに、ぬるい夏の風と、春馬の吐息がかかって、なんだか、くすぐったい。

「ねぇ、春馬は?何て書いたか覚えてるの?」

「俺は、美容師」

「だよね、いいなぁ、春馬は、得意なことがあって、夢があって、変わらない想いがあってさ。私みたいに、宙ぶらりんじゃないや」

夜空に、ぶら下がっているだけに見える大三角形も、それを、構成する星一つ一つに、ちゃんと意味があるから、あんな風に堂々と輝いて見えるのかもしれない。

思わず眉を下げそうになった私に、春馬が唇を持ち上げた。

「真理亜は、真理亜でいいじゃん」

「どゆこと?」

「変わらなくていいってこと」

「やだよ、変わりたい!小さくていいから夢の一つだって見つけて、叶えてみたいよ」

「……焦んなくたって、叶うから」

珍しく、春馬の口調が、僅かに苛立ちを含んでいたように感じた。

「春馬?」

「真理亜は、前だけ向いてて」

振り返りそうになった私の頬を、春馬の大きな掌が、押し返すようにグイッと前を向かせた。

最後の仕上げに、纏めた髪の毛をひっぱるようにして立体感をだしていくと、私の持ってきたピンが挿しこまれる感触がした。

「なぁ、髪切るなよ」

「え?」  

「はい、できたぞ」

春馬が、スマホで写メを取ると、立ち上がって私にスマホを見せた。

ちょうど、左右の耳の対角線上に、くせっ毛をひとつに纏めてあり、ところどころウェーブを描きながら、ふわりと上品に一つに纏められている。