菜都実が目を覚ましたときには、茜音は身支度を終え、部屋のテーブルで何かを広げていた。
「あ、おはよぉ。大丈夫だよ、寝坊じゃないから」
「そっか、焦って損した」
「そうでなくても今日は日曜日だし」
「そっかあ。なんだか最近曜日感覚も危ないときあってなぁ」
「大変だったもんね。そういうときは少し休んでいいんだよ」
昨夜、茜音の寝顔を見ていたら眠れなくなってしまったなんて言えるわけない。
それに、菜都実は初めて茜音の寝言を聞いた事実だけではなく、その内容に驚いていた。
その内容が彼女の過去の生活記憶の一部だとしたら、幼い頃の茜音はその後に待ち受ける過酷な運命などとは無縁で成長していたはずだと……。
でも、そのことを今の時間に話すことではないと菜都実の中に押しとどめることにした。
窓際のテーブルの上に広げられているのは京都周辺の地図だ。しかも、観光用のものではなく自分たちのような観光客が持ち込むには似合わない道路地図。
聞けばこの場所探しの旅を始めてから使い続けているもので、観光マップと違い誇張などがないから目的の当たりをつけるのはこちらの方が都合がいいとのこと。
「ちょっと準備しちゃうわ」
「うん」
洗面台で歯を磨きながら考える。茜音が見ていた地図は今日予定している場所よりもさらに奥地になる。そこに何かがあるのか。
ただし、茜音がこれまでに何度も人里離れた場所にも向かっていることを思い出してみると、そこに確かめたい場所があることは間違いなさそうだった。
「さて、朝飯食って出かけますかぁ」
「そうだねぇ」
テレビの天気予報によると今日は後半になるほど崩れるような内容だったから、動き出すなら早めようと話しながら部屋を出る。
朝食会場のレストランは既に先客で混雑しており、これから仕事に出かけるようなビジネススタイルの人、自分たちと同じように観光に来ているらしい人と混じっている。
「あれ、あの三人も同じホテルだったんだぁ」
「あ、ほんとだ」
茜音が気づいたのは、昨日自分たちと同じようなコースで回っていた三人連れだった。
大学の入試が終わった高校3年生なら少し早い卒業旅行などと気にもしないかもしれない。
ただ、どう見ても年齢層が違うし、男女混合という組み合わせ。
恐らく、女子二人は姉妹なのだろうとの予想はあった。それは同じ髪の色や形は違っても同じ色のリボンを髪に留めていたことからも想像に容易い。
一番年長に見える少女がポニーテールのアクセント。もう1人は両サイドにやはりトレードマークのように結んで、残りは肩口まで自然に降ろしている。
疑問はもう一人同行している男子の方だった。年齢的には恐らく妹と同級生くらいなのだろう。ただ、感じられる雰囲気からは兄妹というようなものでもない。
茜音も菜都実も三人を見かけては、どういったグループなのかと話題になっていたものの、答えを出せたわけではないし、そこまで聞く必要もないと思っていた。
そんな前日のことを思い出していると、混雑のために相席でも構わないかと聞かれ、頷いた二人が案内されたのは偶然にも例の三人のテーブルだった。