先に入浴に入ってもらい、菜都実は窓から外を眺めている。
茜音と出会ってもうすぐ満2年となる。その間だけでも、彼女の思いを理解されないことを原因とするトラブルを何度も見てきた。
去年の秋、偶然にも生徒会長を巻き込んだことから、茜音の一件が公けになったことで、校内の大半は彼女を応援してくれるようになった。
それまで彼女には男子からの注目を一手に集めた上、誰の告白も受け取らないという表向きのことを周囲の女子や、その騒動を問題視する教師などからもあまりいい印象は受けていなかった。
「でもねぇ、誰かとお付き合いするなんて、考えることもできなかったなぁ。それに、もし誰かとお付き合いしたところで、すぐにダメになっちゃうよ」
「そうかなぁ?」
菜都実から見る分には、同性である自分から見ても茜音は理想の彼女になりそうな感じはする。
しかし、茜音は顔を横に振った。
「わたしの場合、健ちゃんのことが大きすぎるんだよ。男の子からしたら、どうしたって健ちゃんと比べられちゃう。きっとそれは嫌だと思うよ」
「そうか。うん、そうかもな」
これは菜都実も佳織も同感だ。今の茜音は健という少年がすべてのベースになっている。
その彼は茜音の思い出の中にある姿だから、現在は仮にどうなっていようとも、今の現状では誰もかなわないだろう。
この先もし、茜音が他の男子と友達以上の関係を持つためには、その彼と再会して決めるか、それに匹敵するようなことが発生しなければならない。
それ以上、言葉が続かなくなって、二人は窓の外の夜景に再び視線を戻した。
他の都市と違い、景観を大事にする街だけあり、派手さはないが冬空にマッチしているような静けさがあった。
「京都なんて中学以来だぁ。来年の修学旅行はどうなんだろうなぁ……?」
二人の通う私立櫻峰高校では3年生の1学期に修学旅行が行われる。毎年目的地が変わるので、まだ自分たちの番にどこに行くかは決まっていない。
「修学旅行かぁ……。わたしも京都だったぁ……」
菜都実とは逆に茜音は窓から視線をそらした。
「そうだったんか。茜音って同じ中学じゃなかったよね?」
菜都実の記憶には茜音が同じ中学だったようには記憶されていない。それは同じ中学から来た佳織とも以前話しているから間違いないだろう。
「本当はね、菜都実と一緒の中学校に入学はしたんだよ。でもすぐに私立の学校に転校しちゃったんだよ」
「そうだったの?」
これは佳織も知らない事実だろう。ただ、すぐに転校した同級生がいた記憶はないから、同じクラスではなかっただけにすぎない。
「小学校の頃から、やっぱりいろいろ言われちゃってね……。中学に入ってエスカレートしそうになって……。結局転校することになっちゃったんだよ……。あのままだったら、わたしは高校進学もなかったと思うよ」
淡々と話すけれど、それは簡単に出来ることではなかったはず。
菜都実にはどう声をかけていいのか分からなくなってしまった。