「茜音ぇ、どっかいいとこないかなぁ?」
学年末の試験も終わった放課後、菜都実は帰り支度をしている茜音の横にやってきた。
「突然どうしたのぉ?」
「いやさぁ、ようやく由香利の四十九日も終わってねぇ。最近は茜音の旅に付き合えていないなぁと思ってさぁ」
由香利の葬儀が終わって数日後には店も再開し、茜音と佳織も以前のように手伝いに戻っていたし、その合間を見計らって茜音は彼女の旅を続けていた。
しかし本格的な冬シーズンに入ってからは、いくら茜音が旅慣れているとはいえ冬山奥の現地に分け入ることは危険が大きすぎる。それこそ幼い時の再現で命を落としかねないことから、車窓からの探索となってしまうことが多かった。
そのためか、あまり大規模な旅もなく、茜音の単独行動で、日帰りや1泊などの短期日程が多かった。
「そうだねぇ。分かった。今すぐにはどこって決められないから、うちで決めてから教えるね」
「うん、頼むわ。でも、茜音に意味がないところじゃダメだぞ?」
「うん、それは大丈夫」
菜都実の傷心を知る茜音のことだ、もし自分のことを全面に出してしまえば、彼女には無意味な場所を選んでしまうかもしれない。それではあまりに身勝手になってしまう。
しかし、茜音は菜都実のそんな心配を分かってるらしく、
「わたしの方でも行ってないところ探すから、ちょっと待っててねぇ」
候補地の即答をしないということは、さすが茜音もそのことを理解していると分かってほっとする。
「分かった。本当は佳織に頼む方がいいんだろうけどさぁ」
「そうだねぇ、でも家族旅行じゃ仕方ないよぉ」
いつもならば、このメンバーのプランナーは佳織で、三人の旅のときはもちろん、茜音の一人旅の日程もまとめてくれる。ところが、このテスト明けの休みを利用して、佳織一家が家族旅行に行くということだった。
「本当はさぁ、佳織も誘わないとって思ったんだけどな」
二人で学校からの帰り道を歩きながら菜都実は言う。
「そうだねぇ。佳織も最近元気ないもんねぇ」
「そうだよな? なんか、特にあたしに遠慮してるみたいでさぁ」
「やっぱりあのころからかなぁ……」
「そうとしか思えないんだけど」
おそらく佳織自身も気づいていないのだろう。2ヶ月前の由香利の悲報から、佳織の様子が少し変わったのは間違いない。
本当ならそちらのフォローも大切で、恐らく彼女の家族がそれを気にしてのことに違いない。
「あんまり気にすることないんだけどなぁ。それに変わらなきゃなんないとしたらあたしの方なのに」
「佳織にはもう少し整理する時間が必要なんだと思うよ」
「そうかもしれんなぁ。まぁ、言わないでおけばいいか」
「うん、そのほうがいいと思う」
「おし、そんじゃ後は任せたぞ」
今日は店が臨時休業ということで、三人とも店に出る予定はなくなっている。菜都実も茜音の家の方を回って帰っていた。
「うん……。ねぇ、もし時間あったら寄って行く? なんの準備もしてないから部屋の中は散らかってるけど……」
自宅マンションの下で茜音は菜都実を引き止める。
「いいん? 茜音の家なんて最近ぜんぜん行けてなかったなぁ」
結局、茜音の誘いどおりに二人は茜音の部屋で腰を下ろしていた。