【茜音 高校2年 1月】
「茜音、お腹空かない?」
「へぇ~? 東京駅で駅弁買って食べたのにぃ?」
東京駅からの新幹線、窓際でぼんやりと外を眺めていた茜音を隣の菜都実がつついた。
「しゃーないじゃん。お腹が減る生理現象は防ぎようがないの」
「仕方ないねぇ。次の車内販売来たらお弁当買っちゃえばぁ~。まだ時間あるから食べてる時間はあるよ」
「そーする」
菜都実がワゴンを探すべき通路をキョロキョロし始めたのを見て、茜音は再び窓の外を見た。
「これでよかったよねぇ……」
小さく息を付いて茜音は呟く。
普段ならば、そんな呟きにも返事を返す佳織がここにはいない。
それには、今回だけの特別な事情があった。つい2ヶ月ほど前に……。
「上村はいるか?」
もうすぐ冬休みという教室。昼食の弁当箱を片付け、片岡茜音、近藤佳織、上村菜都実のいつものメンバーで談笑していると、教室の後ろ側の扉が開き、担任が呼んだ。
「菜都実、先生が呼んでる」
「おいよ」
茜音はたまたま廊下側を向いて座っていたので、それに気がついた。背を向けている菜都実は気づかなかったので呼ばれていることを伝える。
茜音に言われ菜都実は席を立ち、担任と数語交わすと、何か急いだように飛び出していった。
「なんかあったんかな?」
「さぁ」
思えば、なにげないこの出来事が、それが今回の事件の始まりだった。
しばらくして、そのまま残っていた茜音と佳織のもとに戻ってきた彼女は、出て行ったときとは全く様子が変わっていた。
「何があったのぉ?」
顔からは生気が消え、目もうつろ。しかも何かを口の中で繰り返しているようだ。
「菜都実、しっかりして! 何があったの?!」
あまりの変わりように、待っていた二人は愕然とした。
「……」
「なに? どうしたのよ?!」
「佳織…」
茜音はいら立つ佳織を抑えると、一度大きく深呼吸をして、菜都実の口元に耳を寄せ、落ち着いた声で質問する。
「ねぇ、何が起きたのか教えてくれないと、わたしたちもどうすればいいのか分からないよぉ?」
さすが、旅先でも様々な人とコンタクトを取ってきている茜音だけのことはある。相手が慌てている時ほど、こちらが冷静にならないと相手も落ち着いてくれない。
「なぁに、どうしたの…?」
菜都実は小さな声で何かを呟く。
「うそ……、由香利ちゃんが?」
今度は茜音までが顔を青くして、菜都実の顔をのぞき込んでいる。
「由香利ちゃんがどうしたって……?」
茜音までが青ざめたので、よけいに焦る佳織。
「由香利ちゃんが、危ないんだって……」
震える小声でやっと絞り出すように茜音は告げた。
「えーー!? いつから!? 菜都実、さっき呼ばれたのはそれなの?」
菜都実は小さく頷く。
「と、とにかく菜都実を病院に行かせないと」
茜音もようやく冷静な判断を取り戻した。平穏な昼休みはその時点で吹き飛び、三人の間には緊迫した空気が流れる。
状況が分かれば、この三人の間での頭脳は佳織にスイッチする。
「茜音お願い。菜都実と一緒に病院に行ってくれる? あとのことは私がやっておくから。あとで荷物とかは持っていくわ」
「うん、分かった。菜都実行くよ」
茜音はまだ放心状態の菜都実の腕を引っ張り教室を出て行く。校門のところまで引っ張てきて少し考える。
いつもならばバスで向かうけれど、今は緊急事態であり待ち時間がもったいないこと。同時に菜都実がこんな状態ではバスに乗せること自体無理かもしれない。
タクシーを停め菜都実を先に押し込むと、茜音は運転手に病院の名前を告げた。
「茜音、お腹空かない?」
「へぇ~? 東京駅で駅弁買って食べたのにぃ?」
東京駅からの新幹線、窓際でぼんやりと外を眺めていた茜音を隣の菜都実がつついた。
「しゃーないじゃん。お腹が減る生理現象は防ぎようがないの」
「仕方ないねぇ。次の車内販売来たらお弁当買っちゃえばぁ~。まだ時間あるから食べてる時間はあるよ」
「そーする」
菜都実がワゴンを探すべき通路をキョロキョロし始めたのを見て、茜音は再び窓の外を見た。
「これでよかったよねぇ……」
小さく息を付いて茜音は呟く。
普段ならば、そんな呟きにも返事を返す佳織がここにはいない。
それには、今回だけの特別な事情があった。つい2ヶ月ほど前に……。
「上村はいるか?」
もうすぐ冬休みという教室。昼食の弁当箱を片付け、片岡茜音、近藤佳織、上村菜都実のいつものメンバーで談笑していると、教室の後ろ側の扉が開き、担任が呼んだ。
「菜都実、先生が呼んでる」
「おいよ」
茜音はたまたま廊下側を向いて座っていたので、それに気がついた。背を向けている菜都実は気づかなかったので呼ばれていることを伝える。
茜音に言われ菜都実は席を立ち、担任と数語交わすと、何か急いだように飛び出していった。
「なんかあったんかな?」
「さぁ」
思えば、なにげないこの出来事が、それが今回の事件の始まりだった。
しばらくして、そのまま残っていた茜音と佳織のもとに戻ってきた彼女は、出て行ったときとは全く様子が変わっていた。
「何があったのぉ?」
顔からは生気が消え、目もうつろ。しかも何かを口の中で繰り返しているようだ。
「菜都実、しっかりして! 何があったの?!」
あまりの変わりように、待っていた二人は愕然とした。
「……」
「なに? どうしたのよ?!」
「佳織…」
茜音はいら立つ佳織を抑えると、一度大きく深呼吸をして、菜都実の口元に耳を寄せ、落ち着いた声で質問する。
「ねぇ、何が起きたのか教えてくれないと、わたしたちもどうすればいいのか分からないよぉ?」
さすが、旅先でも様々な人とコンタクトを取ってきている茜音だけのことはある。相手が慌てている時ほど、こちらが冷静にならないと相手も落ち着いてくれない。
「なぁに、どうしたの…?」
菜都実は小さな声で何かを呟く。
「うそ……、由香利ちゃんが?」
今度は茜音までが顔を青くして、菜都実の顔をのぞき込んでいる。
「由香利ちゃんがどうしたって……?」
茜音までが青ざめたので、よけいに焦る佳織。
「由香利ちゃんが、危ないんだって……」
震える小声でやっと絞り出すように茜音は告げた。
「えーー!? いつから!? 菜都実、さっき呼ばれたのはそれなの?」
菜都実は小さく頷く。
「と、とにかく菜都実を病院に行かせないと」
茜音もようやく冷静な判断を取り戻した。平穏な昼休みはその時点で吹き飛び、三人の間には緊迫した空気が流れる。
状況が分かれば、この三人の間での頭脳は佳織にスイッチする。
「茜音お願い。菜都実と一緒に病院に行ってくれる? あとのことは私がやっておくから。あとで荷物とかは持っていくわ」
「うん、分かった。菜都実行くよ」
茜音はまだ放心状態の菜都実の腕を引っ張り教室を出て行く。校門のところまで引っ張てきて少し考える。
いつもならばバスで向かうけれど、今は緊急事態であり待ち時間がもったいないこと。同時に菜都実がこんな状態ではバスに乗せること自体無理かもしれない。
タクシーを停め菜都実を先に押し込むと、茜音は運転手に病院の名前を告げた。