「こんにちは。やっぱりここに集まってたんだ」
「あ、いらっしゃいませぇ~」
こちらも学校帰りらしく制服のままの清人が三人の方にやってくる。
「反響が大きかったなぁ……」
「そうなんですよぉ、ありすぎたくらいですぅ……」
「それでも、あれで茜音のことを誤解する人も少なくなっただろうから、結果的には良かったんじゃないかなぁ?」
「そうだねぇ……」
佳織が分析しているとおり、結局のところはこれまで茜音のことを知らなかったために言われ続けていた悪い噂を打ち消すには十二分に効果があったのも事実だ。
「あんなに詳しく書いていただいて、ありがとうございました」
「とにかく良かったなぁ。頑張れよ」
「はい。あ、会長の方はどうなんですかぁ?」
清人の方はあの直後の報告では、結果的に『再会』を果たした理香との関係が進み始めたと言う。その後しばらくの時間を経て、どう進展しているのかは興味がある。
「ま、まぁ……、とりあえずは俺が大学を卒業するくらいまではこのままかな……」
理香が清人に二人との関係は親に反対されることがないと語ったのも事実だった。
二人の父親が古くからの友人だったことで、清人は理香の父親に会ったときには、反対されるどころか逆に歓迎されてしまった。
もちろん、事情が説明された後は理香に勝手に持ちかけられていた縁談も破棄され、双方の両親公認の交際となっているとのこと。
「結局、専門科目は違っても理香さんと同じ科目も多いんでしょう? それこそ専門の家庭教師じゃない?」
理香はその後も地元に残り、学校事務の仕事を当面は続けることになった。ただ、それまでに広まっていた「就職できず逃げ帰ってきた」という噂は打ち消され、彼女も「時 期を調整するための一時的な帰省中」というものに訂正されているという。
それでも週末はどちらかが双方の家を訪問している生活。清人の大学入学も決まり、理香の直接の後輩となることが決まったので、彼女は自ら家庭教師役も引き受けてくれているという。
「かいちょーが学校卒業する頃までには理香さんもきっと花嫁修業終わらせるんだろうなぁ」
「おいおい……」
否定はしても、二人とも清人が大学を出る頃には4年以上の時間を過ごすことになる。お互いの気持ちが変わらなければ結果は見えているようなものだし、この二人ならば大丈夫と、周囲もそのときが来るのを楽しみにしている。
「理香さん、初恋実らせるんですねぇ。凄いなぁ……」
「あんたもそうでしょうが!」
「あぃ……。でもまだ分からないもん……」
「理香ねぇが、車を出す必要があるときは教えてくれれば出すって言ってたぞ。山道は慣れてるからまかせろって」
「それは助かります」
これまでの経験で、やはり自由に動ける機動力の重要性は身にしみて感じていたことだし、人となりを知っていれば、お互いに遠慮なく会話をすることも出来る。
今回、理香が出した問題をあっという間に解けたのも、茜音が足を運んで広まった人脈を使い素早く場所を特定できたからだ。
この人脈が後々になって茜音の旅の結末だけでなく彼女の人生そのものにまで影響してくるとは、想像もできないことだったけれど……。