「おはよぉ……ございまふぅ。ふわぁ~」

 週明けの月曜日、眠い目をこすりながら教室に入っていった茜音。

 そんな彼女を待ちかまえていたかのように、クラスメイトに机ごと囲まれてしまう。

「茜音! あんたすごいことやってるのね!」

「片岡、見直したぜ!」

「恋愛の師匠と呼ばせて!?」

「ほぇ~?」

「なんだなんだ??」

 目を白黒させている三人の前に、刷り上がったばかりと思われるホチキス止めのプリントが突き出される。

「あちゃぁ……、これは……派手に出たなぁ……」

 それを見た瞬間、事態の発端を理解できた三人だったけれど……、

「は、はずかしいかもぉ……」

 すっかり取材されていたことを忘れていた茜音の感想だ。


 月刊で発行されて全員に配布される生徒会の広報誌。

 以前からその一部のコーナーとして部活やコンクールなどで受賞した個人を載せるスペースがあったのは頭にあったけれど、今月は『特別版・10年前の約束、覚えてますか?』と題してスペースが倍増されている。

 執筆は生徒会長の清人で、茜音のことが実名で紹介され、写真と共に先日のことが記事にされていた。

 彼女の要望通り、公開してほしいと告げていたプライベートの履歴も注釈付きで書かれている。

 記事の内容はほぼ予想通りだったけれど、周囲の反応の大きさは三人の想定を遙かに超えていた。

 三人の予想通り、周囲の反応は大きく二つに割れた。

 これまでの騒動を謝罪して茜音の応援に回ったタイプが大半。ただ、一部にはこれまで以上に彼女への思いを寄せてしまったタイプも少なからずいた。ただ、応援派が多勢のため、大きなトラブルに発展することはなさそうだ。

 校内でも注目度トップの「片岡茜音」に絡んだ話でもあり、ある程度は想定していた話でもある。

 結局、その日は次々にやってくる人の対応で茜音は大慌てだったし、菜都実と佳織も改めて茜音の注目度を再確認することになった。

「あうぅ……。疲れたぁ……」

「凄かったなぁ……」

 昼休みもそんな騒ぎで、おちおち昼食も食べられなかった三人は、放課後のウィンディに駆け込んでようやく一息を付くことが出来た。

「なんか、今まで以上に騒がれるようになったんじゃないの?」

「そうかもぉ……」

「これまでは男子だけだったけれど、生徒会のオフィシャルになって女子や先生にも広がったからよ」

「そっちか!」

 生徒だけではなく、教師の間にもあの話題が公式になったことから、これまで茜音にまつわる騒動を問題視していた教師の中には、今回の記事によってずいぶんと見方を変えた者も多かったという情報も流れてきている。

 それに佳織の言うとおり、女子からの反応がずいぶん目立ったのが特徴的だった。

 これまでは、どちらかというとモテるのに断り続けるといった、なんとなくのマイナスイメージが先行していた茜音に、実はそんなストーリーがついていたと分かれば、その印象はがらりと変わってくる。

「こうゆーのをさぁ、シンデレラストーリーとか言うんじゃないの?」

「んでもぉ……、シンデレラだったらちゃんと結ばれないとぉ……」

「学校全体からの注目だからなぁ。おちおち失敗してられないぞ?」

 確かに、話の注目度を考えれば話題性は十分すぎる。

 清人の記事の最後には『来年度の夏まで、生徒会は片岡さんを公式に応援したい。結果は来年度の生徒会から報告する予定』とまで書かれているのだから、これまで茜音が個人でやっていたものが、途中で放り出せるようなものではなくなったということだ。

「いろいろコメントを用意しておかなくちゃならないねぇ」

 これからどうコメントしていいのか三人で考えているときに、店のドアが開いた。