「そのときに、笑ってくれたのが私にとっては最後だったよ……」

 高速道路のパーキングエリアで、休憩を取るために車から降りた茜音は空を見上げながら言った。

「もう会えなくなっちゃったんですか?」

「うん……。次に行ったときにはもうね……」

 ほんの数年前にも起きていた茜音の辛い別れ。

「あのね、由香利ちゃん。結局ね、その静香ちゃんが好きだった男の子とは、ずっと両想いだった……。静香ちゃんはぎりぎりの所まで彼が来るのを待ってたんだって……。彼が駆けつけて、しばらく話しをしたあとに彼に看取られたんだって。だから静香ちゃん、写真でもとっても幸せそうだった……」

 静香の葬儀が落ち着いてから、彼女が生前に茜音のことを家族に話してくれていたおかげで、自宅へ招いてもらい、仏壇に手を合わせることができた。その時に聞かせてもらえた親友の最期の時間は、彼女の望んだとおりになったのだという。



「茜音……、さっきと自分で言ってること違うじゃん……」

 菜都実が小さくつぶやいた。

「うん……。あんな夢を見るようになって、ようやく静香ちゃんの気持ちが分かるようになった……。だから、わたしもまだあきらめちゃいけないし、由香利ちゃんだって、自分からあきらめちゃいけないんだよぉ」

 高速道路のナトリウムランプのオレンジ色に照らされている風景の中で、茜音の姿はなぜか幻想的に他の面々には見えた。

 茜音が時々真面目に語るときの、いつもとは全く違う大人びた雰囲気は、佳織や菜都実も味わったことのない、大切な人たちとの二度と逢うことの出来ない別れによって刻み込まれていると、三人は自然に理解していた。

「あのね……、由香利ちゃん。今度の治療のこともよく聞いてはいないんだけど……、わたしも佳織も、またこうやってみんなで遊んだり、由香利ちゃんの恋愛のお手伝いしたり……。みんなで待ってるから……。必ず戻ってきてね……」

「うん。分かった。また退院したら、一緒に遊んでね……」

「約束だよ?」

「うん……約束ね……」

「ちょっち……、由香利の双子は実は茜音なんじゃねぇかぁ?」

 菜都実が少し崩した顔で割り込んできた。

 自分がなかなか由香利の気持ちに同調しきれないところに、茜音はなんの躊躇もなくそれを飛び越えてしまった。

「大丈夫。私は正真正銘のお姉ちゃんの双子の妹だから……」

「ほんとかいな……」

「さぁて、そろそろ時間ですな……。帰りますぞい……」

 時計を見た佳織が立ち上がる。遅くなるとは事前に話してあるけれど、あまり深夜になってしまってはそれぞれの家に迷惑だし、由香利の体調も心配になる。

「茜音、佳織。今日はサンキュ……」

 再び動き出した車の中、隣の席の佳織に声をかけた。

「バカ、あんたらしくない。最初からお礼なんて言われる筋合いないの」

「そんでもさ……」

「菜都実……。大変かもしれないけどぉ、みんなでがんばろ。そのために私も茜音もいるんじゃん?」

 恐縮しきりの菜都実をなだめる。誰が悪いわけでもないのだし、気まずくなるのはそもそもの本意からも外れてしまう。

「あんたが湿気ちゃったらうちらは暗くなるからさ。月曜は会長室に行くんでしょ?」

「まぁなぁ……。かいちょーどうなったかなぁ……」

「そうね。それにしても……、茜音は本当に強いねぇ……」

 二人は後ろの座席で由香利と肩を寄せあっている茜音を見つめていた。