一足先に温泉の建物を出ていた菜都実と由香利は、歩いて10分ほどの湖畔キャンプ場の中にいた。

 日が西に傾きはじめ、あたりの景色がオレンジ色に変わりかけている。

「次の手術……、来週だって……?」

「うん……。本当はね、ここにも来られるか分からなくて……。でもお姉ちゃんとの旅行だから……、抜け出しても来たかったんだ……」

 キャンプ場の中には湖に突き出した桟橋に二人並んで腰掛ける。つま先のあたりが湖面に触れる。

「あたしさぁ、いつも何にもしてやれなくて、ごめん……」

「いいの……。双子で姉妹なんだよ。難しいこと考える必要はないよ……」

「だからだよ……。双子だからだよ……。もし一卵性だったら……、あたし……、自分の身体を提供することだって出来るのに……。それができないんだ……。なんの役にも立てない……」

 菜都実がずっと持っている葛藤。

 そう、自分たちは双子。ただ、よく言われる一卵性の身体ではないから、臓器移植や輸血にすら役立てない。

「そんな……。いいんだよぉ……。もし、それが出来るって分かったとしても、私はそれは拒否すると思うな……。お姉ちゃんが不自由な思いすることはないんだから……。でも、私の事はあんまり表には出していなかったんでしょう……?」

「さっきの二人が初めて知ったかなぁ……。でも、あの二人にはもっと早く知らせていても良かったのかもしれない……」

 先日まで誰にも話したことのない双子の妹の存在。

 それは菜都実なりの精一杯の我慢だった。

 もちろん常に頭の中から離れたことはない。どうしても同い年なのに儚く見える由香利のことを誰かに話せば、あの二人のことだ、きっと気を使ってしまうに違いない。

 それは菜都実の中ではタブーになっていた。せっかくの友達に自分たち姉妹の苦労を話すことはないと思っていた……。

「あたしさ……、もう少し女っぽくなればいいなぁとは思うんだけど、由香利のことを考えちゃうと、本当にいても立ってもいられなくなっちゃうから……。がさつでごめんね……。もう少し何とかするように努力はするから」

「いいんだよ……。その気持ちが嬉しい……。でもね……、私もお姉ちゃんがいてよかったって思うよ……。いつも一緒にいられないけど……。元気になったら戻ってくるから……」

「早く、戻っておいでよ……。部屋狭いけどさ……」

 菜都実の一家が今の場所に家を構えて店を出したのも、由香利の病院との距離、そして自宅に帰ってきたときに街中の空気の悪いところではなく、海岸の風を感じられる場所にという家族全員の思いがあったから。

「うん……」

「なにしんみりしてんのよ。あたしだって寂しいんだぞ?」

「お姉ちゃん……。こんな妹でごめんね……」

「ばか……」

 思わず隣の体をぎゅっと抱きしめる。こんなふうに抱きしめたのはいつだったのか……。もうずいぶん長いことしていない気がする。

 いつまでこれが出来るのか。誰も正確な数字を出すことが出来なかったから、今のうちに互いの記憶に刻みつけておきたかった。