「ちょっと熱めだよぉ。注意ぃ~」
先ほどの騒動があっても、先に浴槽に入っている茜音は菜都実姉妹に声をかける。
「あんた顔赤いって……。一気に入ってるとのぼせるよ」
「もうだめぇ~」
木造の浴槽の縁に腰掛けた茜音を見て佳織が外から戻ってくる。
「露天の方が温度低くてちょうどいいよ。誰かこのドジっ娘をなんとかしてもらえないですかねぇ……」
菜都実は妹を促して先に外に出る。内風呂と違い外風呂は石造りの露天になっていて、確かにお湯の温度も控えめだ。
「本当に、あの二人にはあとでなんかおごらなくっちゃなぁ」
「え?」
露天風呂に浸かってようやくほっとしてすぐに菜都実がつぶやく。その意図に由香利はすぐについていけない。
「佳織と茜音。茜音、確かにドジも多いけど、いつもあんなに酷くないもん。きっとうちらに気を使ってんだよ。自分がピエロになってさ……。あんだけ髪型に気を使ってる茜音が気づかないなんてあり得ない」
中を見ようとするも、表の方が明るい時間は中の様子はあまり伺い知ることは出来ない。
「じゃぁ、さっきののぼせてるのも?」
「すぐ後ろがお湯の注ぎ口だったじゃん。由香利と同じで茜音もあんまり熱いお風呂は得意じゃない。茜音とは高校1年から一緒にいるし、佳織とは中学からだもん。そんくらい分かる……」
「そうか……」
「それに、いくら温泉って言ったって、こんな明るい時間って言うのも妙じゃん。佳織が周りに人が少ない時間をちゃんと調整してくれたに違いないんだよね……。あれも抜け目ないんだから……」
あの二人ならそれくらいの打ち合わせは前もってしていてもおかしくはない。それをいとも自然にこなしてしまう。
「友だちの数って言ったら、由香利と変わらない。でもあたしにはあの二人が十分すぎるほどの親友だよ」
「なんて言えばいいかなぁ?」
「別に? 今は気がつかないふりしていれば。どっかでさらっと言うからさ」
「うん。分かった」
そこまで言ったときに、扉の方から声が聞こえた。
「……だからって水かけることないじゃぁん……」
「水じゃないって! ぬるま湯だって」
「ウソだぁ……。あんなに冷たいわけないじゃんよぉ……」
「相変わらずうるさいね。どうでもいいから入ったら? ちょうどいいよ?」
菜都実に言われて二人もおとなしくなった。
「菜都実なんか何話してたのぉ?」
「え?」
まさか二人の話をしていたとは言いにくくて……、
「ん? あんた小さいねぇって話」
「そうかぁ……。本当は双子だもんねぇ……」
身長だけをとってみても、二卵性とはいえ同じ日に生まれたとは思えない。それに服がなくなったことで身長だけでない差が歴然と見えてしまっていた。
「これで全員同い年ってのも信じられんよなぁ……」
「菜都実はいいでしょあんたは……。由香利ちゃんの分まで成長してんだし?」
佳織が言うように、この中では菜都実が一番の成長で、妹の分までと言われても否定できないかもしれない。
「正直お姉ちゃんが羨ましい……」
由香利にまで言われてしまっては反論したくてもできない……。
「なによあたしだけぇ……。茜音の方が悪質じゃん。服を着ていたらわかんないからって、ちゃんとおっきくなってんだからさぁ」
「ほぇぇ? そんなことないのにぃ……」
確かにぱっと見た目は小学生にさえ間違えられることのある茜音。実はそのプロポーションは菜都実に次ぐものを持っている。服装でボディラインを隠してしまうのかもしれないけれど、外観ではなかなかそれに気が付かれることはない。
「まぁまぁ、由香利ちゃん、おっきくなるときは一気になるから大丈夫。菜都実だって高1までは洗濯板だったしね」
「佳織ぃ、それフォローになってないぞい……。それ考えたらさぁ、あの理香さん、けっこうスタイル良かったよねぇ。あんまり胸はなかったけど……」
「そうねぇ……って、違うっしょ! あの二人大丈夫かなぁ……」
ようやく本来の話に戻ってきたようだ。
「ああ見えても会長も奥手だからなぁ……。特定の彼女これまでゼロだもん」
「よく調べたねぇ……」
露天風呂とは言え、かれこれ1時間近く浸かっていることもあり、茜音は今度こそ本当にのぼせそうな雰囲気だ。
「まぁ、調べやすいでしょ。まぁ、もし片思いの子がいたとしても、学校じゃいくらなんでも告れないよねぇ……。目立ちすぎるし……」
「ほえぇ……」
「さぁて、本当に茹で上がりそうなのがいるから、ちょっち時間は早いけど出ますかぁ」
佳織は隣でとろんとしてきた茜音を見やってため息を付いた。