「ここでいいのかしら?」
「はい。ありがとうございました」
緑色の屋根と白い外壁が特徴の建物が佳織たち四人の終着点で、ここからは別行動となる。
「迎えに来てもらう時間も決めてあるんで、ゆっくり帰ります」
「悪いわね……。なんか気を使わせちゃって……」
荷物を下ろしている佳織に理香は小声で行った。
「いいんです。わたしたちはおまけでしかないから……。これからが本番ですよ?」
「そうね。なんか茜音ちゃんを見ていたら自分なんてまだまだなぁって思ったわ」
「ほぇぇ? 大変かもしれないですけど……。最後に決めるのは自分ですよぉ」
「茜音ちゃん……。佳織ちゃんから聞いたの?」
突然やってきた茜音に二人は驚く。
茜音は首を横に振った。
「佳織からは何も聞いてません……。でも、何が起こっているのかは大体わかりますよぉ。わたしだって同じようなものだから……」
「そうね、茜音ちゃんも頑張ってね」
「はいぃ~」
「んじゃ、かいちょー、月曜日に報告待ってます!」
「まじかよ?」
「いいです。忘れてたら押し掛けるだけですから」
「分かった分かった」
理香と清人は四人を残して駐車場を出ていった。
「これからが本番だねぇ……」
「そゆこと……」
その車が見えなくなったときに茜音がぽつりとつぶやいた。佳織も同感だと頷く。
「菜都実、由香利ちゃんも悪かったね。うちらにできるのはここまでだからさぁ。さ、迎えまではもう少し時間があるから温泉と行きますか?」
「ほーい。お風呂ぉ~」
「茜音が羨ましい……」
そうつぶやいた直後、菜都実はその茜音の一瞬の表情を見落とすことはなかった……。
休日ということでもっと混んでいるかと予想していた温泉。まだ時間が早いのか、中はがらんとしていてまだ先客もほとんど居ないようだった。
「なんか学校の旅行みたい~」
「そっかぁ。でもあんなの本当に烏の行水じゃん……。汗流しておわりでゆっくり落ち着いて入ったためしがないっしょ。由香利、あんた大丈夫よね?」
菜都実が隣で服を脱いでいた妹に声をかける。
「あんまり熱くなければ平気……。みんななんて言うかなぁ……」
由香利は付けている下着を取ろうとしてふと不安そうに言った。
「バカねぇ。あの二人はそんなことで驚くような連中じゃないよ」
「うん、いい友達だね……」
いつの間にか茜音と佳織の姿はなく、二人だけが残っていた。
「久しぶりに背中流してあげよっか? 小さい頃みたいに?」
洗い場に行ってみると先に入っていた二人の他は誰もおらず、本当に貸し切り状態の様子。
なにやらその二人が笑っている。
「どしたぁん?」
「ほえぇ~ん。ヘアゴム外して来るの忘れたぁ……」
「気がつかないで頭洗おうとする方が悪い!」
「う~」
見れば、茜音のトレードマークでもある両サイドの三つ編みが解かれていない。
これまでにもそれぞれの家で泊まった時に、茜音は入浴時にはそれを解いてきちんと洗っているはずだ。
「ドジはほっといてうちらも洗っちゃおう」
菜都実は先行組の二人から少し離れたところに妹と並んだ。