「でも、素敵よね……。初恋でそこまで一生懸命になれるって……。きっとその彼も茜音ちゃんのこと探してるんじゃないかな」
さっきまでの少し陰った顔も戻り、デザートのパフェをどう攻略しようか考えていた茜音に理香は微笑みかける。
「そうですかぁ? でも初恋じゃなかったら出来ないかもぉ……」
「そうねぇ。一度失恋経験味わっちゃうと、こんなにピュアには動けないかもしれないわぁ。場所と人を同時に見付けなきゃならないなんて大変よねぇ」
「どうでしょうか……。もしかしたら、その彼氏さんは茜音さんのこと、もう探し当てているのかも……」
「ほぇえ?」
唐突に由香利が口を挟んだ。
「だって、私もお姉ちゃんから茜音さんのことを聞いてちょっと検索してみたんです。もし同じようにキーワードを入れてネットで検索していたとしたら、茜音さんのスレッドを見つけるのはそんなに難しい話ではないんですよ」
「そうかぁ……。健ちゃん意地悪してんのかなぁ……」
由香利の言ったことももっともだ。今の時代、ネットでの情報網は10年前とは大きく変化している。
それこそ一番最初に茜音たちが検索したときにも見切れないほどの情報が手に入ったように、茜音が動き回っているという話はネット上で公開されていることだ。
佳織と萌をはじめとする支援してくれる各地のメンバーによってSNSのサイトも立ち上がり、情報の提供や写真を入れたレポートなどもある。今日の事も佳織が撮影している写真も一両日中には公開されるのだから。
「きっと、その場所で会いたいんじゃないかなぁ……。ネットでひょいと再会しちゃったら、なんか盛り上がりに欠けるじゃない。だからそれまではじっと見ている可能性もあるよね」
理香の言葉はある意味説得力がある。彼女は清人の住所なども知っていたにも関わらず、時期が来るまでヒントの手紙を送らなかったからだ。
再会していないと思っているのは実は茜音だけだったりする可能性もゼロではない。
「うぅ……。ってことはあと半年以上はまだ会えないってことになるよぉ……」
スプーンをくわえたままうなる。もし彼が自分を既に見付けているのなら、茜音に会いに来るのはそれほど難しい話ではない。
本当に自分を見付けていないのか、それとも由香利が言うようにわざとなのか。その答えはどのみち来年にならないと分からないわけだ。
「茜音はどっちがいいの?」
「うぅ、そりゃぁ早く会いたい……。でも、次に会う時ってそんな簡単に話が終わらない気がするんだよねぇ……」
「うんうん、茜音の一大決心でしょ?」
「なんか他人の気がしなくなったぞ……」
清人の呟きに、なにを今さらという様子にため息をつく佳織だ。
「だから最初に言ったじゃないですか。先輩と同じなんですよって。茜音はフリーなんかじゃないんです。言い方が悪いですけど、茜音と誰が付き合うかなんて勝手に盛り上がっている人たちに言いたいのは、茜音は10年前から相手を決めているんです。でも真面目な茜音は不確定な話で誰も傷つけないためにまだ正式発表していないだけのことです」
「なんか……、健ちゃんと会った後の学校を想像したくないなぁ……」
「暴動が起きるかも……」
校内の男子で茜音の名前を知らない者はいない。
人気があると分かっていても決して高飛車になったりしないと彼女の株は上がる一方で、最近では菜都実の言うように少し過熱気味。彼女は全く悪くないのにもかかわらず、問題視をする教師や、その姿勢を批判する女子がいるという噂も聞こえてきているからだ……。