「おはようさん。もうすぐ着くよ。起きなさいってば」
早朝5時頃、バスはすでに長野県の安曇野付近を走っており、佳織は熟睡していた清人と菜都実を起こした。
「えー、なんで茜音が起きてんのよぉ……」
「茜音はほとんど寝てないって……。菜都実が一番寝てんのよ」
「そうかぁ、茜音にとっても緊張だもんねぇ……」
途中、通過する車窓の左側を佳織はじっと見ていた。
「先輩、見覚えありませんか?」
「なんか不思議なんだよなぁ……。本当に初めてなんかな……。どっかになんか引っかかっているみたいだ」
佳織と同じく、窓の外をじっと見ていた清人も、なにかを考えるように口数も少なくなっていた。
「茜音……、佳織まだなんか知ってるよあれ……」
ここまで来ると、菜都実も茜音も先日までの情報だけでないものを佳織が知っているのだと感づき始めていた。
「うん……。いつもの佳織じゃないみたいぃ……」
「そうそう由香利、この先に茜音が狂ったように見えても気にしないで。ときどきフリーズするから」
「フリーズ?」
「あ、ひどぉ……。ちゃんとその場所を見ようとしてるだけだもん~」
茜音が言うには10年近く前と全く同じ景色が残っているとは思えないので、集中して雰囲気やその他の状況を見極めようとしている。
そのために五感を総動員するというのだが、傍目にはその場で固まってしまっている風に見えるという。いつの間にか、菜都実の佳織の間では「フリーズ」という表現で呼ばれるようになっていた。
終点の白馬に着く頃はちょうど夜が明け切ったくらいで、朝日がバスターミナルを明るく照らしている。
「さぁて、これからどうするの?」
「ん~と、本当はこのまま乗り換えて南小谷まで行きたいんだけど……、その必要はなさそうだね」
「ほぇ?」
佳織が改札口の方を見ていたので、他の面々も見やる。
「うそ……だろ……?」
清人の口から思わずそんな言葉が飛び出した。
到着するバスを待つように出迎えの人が何人もいる。その中に一人、若い女性が混じっていた。
「さて、覚悟決めていきますか?」
佳織は呆気にとられたような彼を引っ張るようにバスの外へ降ろし、あとの三人はその後に続いた。
「出迎えてもらっちゃってすみません」
「いらっしゃい。来る便が分かってたから来ちゃいました」
彼女は佳織と挨拶を交わすと、清人の方に向き合った。
「お久しぶり。受験も合格おめでとう。来年春から大学生かぁ」
「せんせ……、なんで俺が来るの知ってんだよ?」
清人はその女性、西村理香に拗ねるようにたずねた。
「こちらの名探偵さんはものすごい洞察力ね。あの場所も私のこともあっと言う間に探し出しちゃったわ。本当なら反則と言いたいところだけど、私も住所書かなかったり意地悪だったからおあいこね」
理香は清人と佳織を相互に見やって言った。
「佳織、これを隠してたのか。やるなぁ」
「ちょっち衝撃すぎかもしれないね……」
「ほえぇ、そうだねぇ……」
そんな様子を後ろから見ていた三人は顔を見合わせて苦笑していた。