その週の金曜、茜音たち三人に由香利、清人を含めた五人は日が変わる直前の新宿駅にやってきた。
「行きの分は確保しましたけど、帰りは自分でお願いしますね」
そう言ってそれぞれにチケットを渡した。
「なんだってこんな時間出発なのよぉ……」
最初の予想では土曜日の早朝出発と思っていたのだが、急遽佳織からの連絡で出発を前倒すことに決めたのだと言う。
鉄道で移動すると、特急列車のスーパあずさ1号なら翌朝の7時発車。しかし佳織が選んだのは新宿駅前のバスターミナルから発車する深夜バスを使うという。
「文句言わないの。これなら明日の6時前には現地に着けるんだから。普通に行ったら10時過ぎになっちゃう。滞在時間を延ばすにはこいつしかないんだってば」
「でもさぁ、今日は別に泊まりって聞いてないけど、なんで着替えなわけ? これってまぁ泊まりって言っても車中泊でしょ?」
菜都実にはこの時間はもう睡眠時間らしく、なんだか会話しながらも眠そうだ。
「会長さんは現地の状況次第でしょ? 着替えって言ったってシャツとかしか要らないって言ったじゃん。うちらは今日中に現地出発しちゃうから」
「えー? そうなん?」
不満そうな声を上げる菜都実。このメンバーで出かけるのは過去にも何度かある。夏にやはり同じような旅をしたときは泊まりがけの行程だったからだ。
「だって、由香利ちゃんに無理させられないでしょ? 夜出発して明後日の朝には帰ってくるようにするから」
「あうぅ、逆にそれって結構凄いペースのような気がするぅ……」
「まぁね……。でもうちらの分は帰りはちゃんと車を用意したから、まぁ許してよ」
茜音の言うことももっともだ。確かに普通の週末でいくつもの計画をこなすためには少々きつい行程になる。
それだけではなく、紅葉シーズンで近くの宿が取れなかったというのも真相の一つらしかった。
「由香利ちゃん大丈夫?」
座席に座ったとたんに本日の営業は終了と言った菜都実とは対照的に、由香利はまだ元気そうな顔をしている。
「大丈夫みたい。この話を聞いた後から興奮しちゃって寝付けなくて……」
菜都実から聞いた話では、この由香利も同い年ではあれど、やはり身体の障害のためか双子とは思えないくらいの差があった。
もっとも菜都実は学年女子の中でも一番背の高い部類にはいるのだけど……。
「気分悪くなったりしたら絶対に無理しないでね。うちらもなるべく休みは取りながら行くけどさ」
「分かりました」
バスは真夜中の中央道を抜けていく。高尾までは道路脇の照明が設置されている。そこから先は車のヘッドライトだけの世界になる。
「考えてみれば夜行って初めてかもぉ……」
「え? そうなの?」
「うぅ。だって飯田線の時は新幹線使ったじゃん。夜に電車に乗っても周り見えないからさぁ」
「あ、そっか。移動だけじゃないからか」
起きているのは佳織と茜音だけ。
翌日の行程を考えたら少しでも休んでおく方がいい。
「茜音も休んだ方がいいよ?」
「う~、眠くならないんだよねぇ……。いつものことだからいいけどぉ……」
「なんか遠足前の子供みたい?」
「そんなとこかもぉ……」
夜間帯なので途中からは大きめのサービスエリアも通過してしまう。車内の明かりは落とされているから、少しだけ開けてあるカーテンの隙間から暗闇の道路をただ眺めていた。
結局、軽くうとうとしただけで目的地のある長野県に入っていった。