菜都実と茜音はその場所に残り、萌が出してきたたくさんのアルバムをめくり始める。
さすがは佳織も見込んだことがある。几帳面な萌のことだ。各地の写真を場所別に整理してあり、佳織が口頭で伝えた情報だけでもこれだけの候補地をすぐに見つけ出してきた。
「これだけ写真に撮ってくるの大変だよねぇ……」
「お姉さんの時代からの物でだよねぇきっと。でも、あの頭の回転はさすが佳織だよなぁ……」
「うん……」
しばらくすると別室に消えていた二人が戻ってくる。
「たぶんここしかなさそうね……」
佳織が頷いた。一緒に地図を見ていた萌もどうやら意見が一致しているらしい。
「ここなら特急を使えば日帰りで行けます。あと、茜音さんの橋ですが、この北側はもう白馬の山岳地帯です。もしかしたらあの場所があるかもしれません」
「ほんとぉ?」
地図を見れば、その場所は北アルプスの麓である。一山越えれば有名な黒部ダムも至近距離の場所だ。
「実際に行ったことはないので確信は出来ないですけどね。でも地図で見る限りいくつも鉄橋はあります」
思いがけない情報で、茜音の方にも俄然現地に飛びたい病が出てくる。
「早く先輩の受験が終わらないかなぁ」
昨日の話では今週末にも試験があり、来週中には結果が出ると言っていた。その結果が合格ならばこの旅が実行される。彼の結果如何ではいつの出発になるか分からない。
「紅葉がきれいなうちに行ければいいねぇ」
「そうですねぇ。その先輩も一生懸命ですよきっと。だって、その人にあったら告白するんですよね?」
萌の言うとおりだ。彼はその場所にただ行くわけではない。話の流れを聞く限り、そこで一つ何かが起きるわけだ。
「受験も恋も一緒にかぁ。大変だねぇ……」
萌の家を後にして、横須賀に戻る電車の中、茜音は佳織に聞いた。
「でもなんであの場所だって分かったのぉ? 他にも似たような場所があったでしょう……」
「まぁね。見当はついていたんだけど、一応萌ちゃんのお墨付きが欲しかったんだよね。今日の話だとまず間違いないだろうってことでね。あとで種明かしはするから」
佳織はさっきよりも自信たっぷり。まだその場所に立っていないにも関わらず、ほぼ間違いないと言わんばかりに、逆に空振りにならなければいいと不安になってしまう。
「かいちょーさぁ、本当にうちらのこと信用してんのかなぁ……」
「まぁ、話が急に進んだから微妙なんじゃん? だから完璧にお膳立てする必要があるんだよ。一泡吹かせて茜音の対策してもらわなくちゃ」
「佳織もずいぶん過激になってきたねぇ……」
佳織の様子から見ると、今日の話を通じて、かなりの自信を持っていることはわかる。ただこの様子を見るとまだ何か策略を考えているように見える。
「まぁ任せなって。茜音もあの辺の情報探しておいた方がいいよ」
「ほわーい……」
この二人が、佳織の言葉の意味を思い知らされたのは、週が明けてからのことだったから……。