「好きだった先生からの挑戦状かぁ。渋いことしてくれるねぇ」
「これがヒントってことですねぇ……」
「そう言えば受験を終わらせてからってことですけど、今が追い込みの時期ですよね?」
話の進展を聞くと、それこそ茜音の橋探しとそう大きく違いはない。違うのは茜音はまだ2年生。一方で3年生の2学期の清人は間違いなく追い込み時期だ。
彼は頭をぽりぽりかいて、
「来週、推薦入試があってさ……。本当はこんなことしている時間はないって分かってるんだけど……」
「はぅ、こんなこと抱えていたんじゃ勉強も身に入らないですよねぇ……」
ズバリと核心を突く茜音。清人は降参したように笑う。
「他の奴らとは違うな。片岡さんの話も分かったし」
「んでどーする? 茜音の橋探しとは少しずれるけど……。会長の相談に乗ってみますかい?」
確かに、今回の話は茜音に直接関係のある話ではないし、この写真を見る限り、鉄道の橋がある様子でもない。
「分かりました。受験の結果が出るまでに場所は私たちが探します。先輩はその推薦をさっさと合格しちゃってください」
何かを考えている様子だった佳織が突然口を開いた。
「ほぇ??」
「本当にいいのか?」
「こう見えても、私たちあちこち出歩いているし、茜音の場所探しに協力してくれている人たちも全国規模です。この場所の割り出しの目安は何とかなります。その代わり条件があります」
清人だけではなく、茜音と菜都実までが呆気にとられている中、彼女は続ける。
「茜音のこと、なんとかしてあげてください。先輩は2年間かもしれませんけど、茜音は10年です。中身は誰よりも一途なのに、学校じゃひどい言われ方してる。こんなのって不公平です」
「佳織、いいよぉそんなこと……」
茜音の方が焦る。自分が影でいろいろ言われていることは分かっている。でも、それは彼女なりの理由があってのことだ。
「分かった。場所探しはお願いするよ。学校での話は必ず考える。それでいいかな?」
「分かりました。この写真、お預かりしてもいいですか?」
佳織の強気の交渉がこの場では清人に勝っていた。彼は例の写真を三人に預けて笑った。
「来て良かったよ。片岡さんも任せて」
「はいぃ。私のはまだ時間ありますから……」
いつの間にか、時間はディナータイムに突入しており、周りを見ると半分ぐらいのお客も入っている。
「そう言えば、今日じゃないと食べられないメニューがあるって聞いたんだけど……?」
「あぅぅ、そうなんですけど、まだ残ってるかなぁ……」
人気メニューだけに、普段ならこの時間には既に売りきれとなってしまうのだが。
「茜音ちゃん、出してやってくれぇ」
「あれぇ? あったんですかぁ?」
マスターに小声で呼ばれると、彼は茜音の前にまだ焼き上げてないお皿を差し出した。
「間違いなく茜音ちゃんのお客だからさ、1皿だけ残して置いたんだ。今日だけ特別だぞ? 本当は予約取り置きしないんだから」
「はいぃ、ありがとうございますぅ」
オーブンで焼き上げている間に、さっきまでのテーブルをもう一度セットした。
「もう少し待っていてくださいねぇ。限定メニューですから。佳織なにやってんのぉ?」
仕事に復帰した菜都実と茜音をよそに、佳織だけは地図のサイトをいくつか確認して、どこかに電話をかけていた。
「それじゃ、明日よろしくね」
佳織は電話を終えると不思議そうにのぞき込んでいる二人を見た。
「だいたい候補地がいくつか絞られそうです。先輩の合格が早いかあたしたちが探し出すのが早いか競争ですね」
「もう?」
「まさか……萌ちゃん?」
目を丸くした清人だったが、茜音の頭の中には一人の少女の名前が挙がっていた。
「そ、二つ返事でOK。明日の放課後に会いに行くからね」
「うわぁ」
「相変わらずやること早いわね佳織。かいちょー、茜音の特別メニューお待たせ」
菜都実はオーブンから取り出したばかりのグラタン皿を持ってテーブルにやってきた。
「この味に文句言ったら、場所探し取り消しだかんね」
「おいおい……」
菜都実の脅迫(?)もあって、恐る恐る一口目を口に入れた。
「ど、どぉかなぁ……」
「これ、本当に片岡さんが作ったのか?」
驚いた顔で茜音を見つめる。
「はいぃ……。シーフードはお口に合いませんでしたかぁ……?」
「謝る必要はないんじゃないか? マジでうまいぞこれ? クラスの女子に食わせてやりたいくらいだ」
「や、やめてくださいぃ!」
茜音たち2年生も調理実習はある。ただしあえて共同作業にはあまり手を出さないようにしていたからだ。本意ではなくとも目立ってしまうのに、料理の腕まで騒がれてしまうのは得策ではないと考えたからだ。
もちろん個人での実技などでは逆に一切の妥協はないから、クラスの間では茜音の家庭科の成績は謎の1つと言われている。
結局、清人を送り出した三人も、そこで当日の仕事を終えた。