窓の外が明るくなり、二人が目を覚ますと、列車は都会を離れ、山の中を走っていた。

 途中で切り離しがあったのか、機関車もディーゼル機関車になっているし、前に繋がっている貨物の数もずいぶん減っている。

「茜音ちゃん、大丈夫?」

「うん。大丈夫。ここどこ?」

 見知らぬ土地、もちろん土地勘などない二人にはここがどこかすら全く調べる手はなかった。通過する駅には誰もいなかったり、本当に人が住んでいるのかというような場所を走っているときもあり、都会育ちの二人には少々寂しい場所に見えた。

 列車はますます山奥に進んで行くようだ。

「次に停まったら降りてみようか」

「うん」


 しばらくして列車が停まる。信号待ちのようで、しばらく動く気配はない。

「今だよ、茜音ちゃん行こう」

「分かった」

 ホームなどはなく、乗ったときと同じように扉の横についている梯子を伝って降りる。こんな時に動き出したら大変だ。先に茜音を下ろして、健が続いた。

「行こう」

 線路の脇にある小道を見つけると、二人は森の中に走り込んでいった。




「園長先生、やっぱりいませんね」

「昨日の夜からいないみたいです」

 二人が列車から降りた頃、ときわ園の中は大騒ぎになっていた。なにしろ今日は健と茜音の引越しだというのに、肝心のその二人が消えてしまっている。

 朝から学校や公園など、二人が行きそうな場所を当たってみたが、そのどこにも見つけることは出来なかった。

「危ない事していなければいいけど……」

「大丈夫よ。健君だけだと分からないけど、茜音ちゃんも一緒だから危ないことはしないでしょう」

「園長先生、やっぱりいないっす」

 年長の子ども達も総動員して、捜索範囲を広げて探してみたけれど、結果はやはり同じだった。

「あの二人もやってくれるじゃないか」

 周りの心配をよそに、園長先生は何故か懐かしそうな顔をした。

「とりあえず、健君も茜音ちゃんが一緒なら危ないことはしないでしょう。ただし、一応警察には捜索願を出しておきましょうか。何かがあってからでは遅いですからね」

「すげぇ……。あいつら駆け落ちしちゃったぜ……」

「でもさぁ、あんなに可愛い彼女いたらやりたくなる気持ちも分かるなぁ」

 ときわ園の中で二人の仲を知らない者はいない。茜音は1年半のこの施設での生活を経て、素直な性格に加えその容姿も手伝って、注目度はいつも上位だ。

「おいおい、君たちまでやめてくれよ? とりあえずあの二人には無事で帰ってきてもらわないとな」

 園長先生は他の子どもたちに苦笑して答えた。