「そうかぁ……。菜都実の家も大変だなぁ……」
「まぁね……。うちはもう覚悟してることだったし。確かに双子のなのに一緒に暮らせないって辛いけどさぁ……」
喫茶店ウィンディでのランチタイムの時間が終わり、片岡茜音と近藤佳織の二人は、店のマスターの娘の上村菜都実の部屋に上がらせてもらっていた。
久しぶりに来た部屋はサバサバしすぎているくらいにさっぱりしていて、茜音の部屋などに比べれば非常に質素だ。
半月前、突然菜都実の前に双子の妹の由香利が現れた。彼女はすぐにまたどこかに行ってしまったけれど、それ以来どうも菜都実の様子が落ち着かない。
茜音と佳織がそのことを尋ねると、菜都実は自分の部屋に二人を招いたのだった。
「それで由香利ちゃんは治るの?」
「……正直言ってそれも微妙。一応、その時の一番いい治療が出来る病院を探しているんだけどね。手術だけじゃなくて薬の変更も何回もしてるのに、まだ完治できないから……」
「そうなんだぁ。それで菜都実よりも小さく見えるのか……」
「実際小さいんだよ。双子なのに15センチも身長違うんだから。それに双子って言っても二卵性だからこの間の美保ちゃんと萌ちゃんたちとは違うし」
そこまで言うと、菜都実は疲れたように息をついた。
「そっかぁ……。ちょっとこればかりは私たちじゃどうにもならない話だよねぇ」
「う~ん。ねぇ菜都実、由香利ちゃん自体は旅行に連れていけないとか、遊べないとかあるの? ……でも厳しいかぁ……」
茜音が何かを思いついたように尋ねる。
「まぁあれだけ出歩いているところを見ると、動けないって訳じゃなさそうだよなぁ。もちろん投薬とか手術の時にはしばらく病院に缶詰になるけどさぁ……」
「なんかいい案でもあるの茜音?」
「うぅー。まだそこまで思いつかないけど……。もし次にどこか行くときに一緒にいけたらなぁって思って……」
「それ意外にいいアイディアかも……」
苦し紛れに言ったような茜音のアイディアだったのを、佳織は思いついたようにつぶやく。
「茜音の旅ってさぁ、山奥とかじゃん? 空気もきれいだし、気分転換にはもってこいなんじゃないの?」
「確かに景色とか空気はきれいなところだけど、ちょっとスケジュール的に厳しい場合もあるよぉ? 強行軍の場合もあるし……」
茜音が言うのももっともな話で、少しでも訪問場所を稼ぐために距離的に近い場所などは短い時間の中でハードな日程を組むときもある。もっともそんな時は茜音の単独行動が多い。
「最近行きそうなところで候補はある?」
「んー、まだ萌ちゃんからのリストを見ながら選んでるって感じ……。すぐに出かけられそうなところで、みんなで行けるところだよねぇ……」
どうやら次回の候補地は四人で回ることに勝手に決まってしまったようだ。
「ちょっと時期とか場所はもう少し考えるから、由香利ちゃんに話しておいてよね」
「ほいほい。まぁ連絡はすぐに付くから大丈夫。さぁて、これからディナー分の仕込みだぞぉ……」
時計を見ると、もう夜の部の準備を始める時間帯になっている。
ウィンディではランチとディナーの間に店を閉めることはないが、昼と夜では若干メニューも変わるから、テーブルのセッティングなども変える必要があり、次の行き先選定の話は一度そこで中断となった。