「へぇ、萌ちゃんの写真がねぇ……」
夏休みも終わって、最初の日曜日。
結局、そのまま茜音だけでなく佳織もレギュラーでアルバイトを続けることになったウィンディで、茜音の報告にキッチンから顔を出した佳織。
「萌ちゃん、サイトで本当のことを公表したらしいよ。そしたら、逆に励ましのコメントがたくさん来たんだって。それで、思い切ってコンクールに出したら、優秀賞もらったって」
「やるなぁ……。誰も萌ちゃんを責められないよねぇ。あそこまで頑張ったんだもん、本当に誉めてあげなくちゃ……」
夜の時間の仕込みを終わらせて一息をついている茜音が、時計を気にしている。
カランと音がして、店の扉が開いた。
「いらっしゃいませ。あ、美保ちゃん萌ちゃん!」
仕事モードだった菜都実の言葉に、茜音がぱっと振り向く。
「こんにちは。お約束の物できましたぁ」
萌は大きめの箱を抱えていた。
「なんか頼んでたの?」
「あたし知らない。茜音?」
二人をいつもの奥のテーブルに案内した菜都実は茜音を呼んだ。
「わぁ、待ってたんだぁ」
「たぶんぴったりだと思いますけど……。衣装以外で他の人に作ったことないんで……」
持ってきた箱を茜音に差し出す。
「もう、茜音ったらそんなの頼んでたのぉ? 一人だけずるいなぁ……」
「見せて見せて!」
「うわ、かわい~!」
「これ、前に萌ちゃんが着ていたのと同じ?」
「一緒に生地を選んで色違いでお願いしたんだぁ」
ベージュの地に黒、白、赤のチェックが入ったベストと、模様の位置まで合わせて作ってあるスカート。ちょうど秋から着られるような色合いで、やはりところどころに小さく飾り釦やアクセントを取り付けてある。
「茜音ぇ、着てみてぇ!」
「うん!」
嬉しそうに箱を奥に持っていく。
「あれ作るの大変だったでしょう……?」
「自分のサイズではないので、ちょっと苦労しました」
「そっかぁ、それじゃぁ茜音の3サイズ計ったんだっけ? 貧弱でしょう~?」
確かに三人を並べてみると、菜都実が一番いいプロポーションをしている。ただし、そんな菜都実が笑い話にするほど茜音が負けているわけでもない。
「本人がいないからってそんなこと言わないの。そりゃ私らの中じゃ菜都実が一番いいんだから……」
次にその話題が降ってくるのを察してか、佳織が先に予防線を張っておく。
「私も全然ないからいいです。いたっ!」
「も~え~、あたしを置いていったなぁ……?」
隣から美保がつねったらしい。
「だってぇ、そんなのわかんないよぉ……」
聞くと去年までは身長、体重、それこそ3サイズまで一緒のまさに双子だったらしい。
今年の結果でわずかながら萌の方に軍配が上がってしまったため、ちょっと敏感になっているとのこと。しかも、下着のサイズに表れてしまったとなればなおさらだ。
「そうだったの。これは持っていない女の子にしか分からない悩みよね」
佳織が美保の肩に手をおいて続けた。
「美保ちゃん大丈夫! これからこれからぁ。菜都実だって中学の時は『まな板』だって言われてたんだから」
「言うなぁ~!」
四人の騒ぎの後ろから、茜音が顔を出した。
「見て~、ぴったり♪」
「あ、よかったです!」
この日に萌が持ってくるのを見越して、茜音はちゃんと白いカッターシャツを持ってきていたので、びったり決めてきた姿はよく似合っていた。
「さすがオーダーメイドだねぇ……。茜音専属のデザイナーになってもらえばぁ?」
「大丈夫ぅ。今度から二人で作れるからねぇ。あ、萌ちゃん達、せっかくだから新メニュー食べていってよぉ。菜都実、あれオーブンにお願い!」
せっかくの新品を汚さないように、茜音は菜都実に声をかけて、もう一度奥に着替えに戻った。