「萌ちゃん、ありがとうね、うん、健ちゃんとは絶対に会えるって信じる。こんなに助けてもらったんだもん。結果はお知らせしなくちゃ。……あの事故からだったな……。これもわたしの運命なのかも……。あの日も、星だけはきれいに見えたなぁ……。今日と違って周りは雪だったけど……」

 満天の星を見て、彼女はあの事故の日を思い出したようだった。

「茜音さん、それは……」

 あの冬に起きた事故は茜音の人生を変えてしまった分岐点だ。これまで自分からその話題には極力触れることはしてこなかった。

「いいの。あの日の夜、日が落ちたら、星がよく見えたんだよ。わたしは、助けてくれたパパを雪の中から掘り出したの。大変だったけど、雪の中なんかには絶対にいさせたくなかった。それが終わったら、ママがわたしを抱っこしてくれた。そして言ったの。これからどんなに辛いことがあっても、これまでの楽しかったことを思い出して、それよりも楽しいことを見つけて生きていきなさいって。幼稚園児だったから、まだ理解できなくて、でも言葉は記憶に残ってた。この歳になって分かることもたくさんあった……」

 夜空を見上げる茜音。幼稚園の茜音には難しすぎる言葉もたくさんあっただろう。

 本来なら茜音が成長していく中で少しずつ覚えさせていくこと。そこまでの時間がないと悟っていた母親が、茜音にできる限りのことを教えたかったのだと。

「ママね、最後に『育ててあげられなくてごめんね』って言ったの。わたし、そのときにね、他には何も要らないって思った。ママとの時間が欲しかった。それからだよ、本当にその人との時間が本当に大切なんだって思ったこと。本当に楽しい時間は一瞬に思えてしまうくらい短いよ。でも、それは誰も奪うことのできない、わたしだけの大切な思い出になるんだ。ママとパパに一緒にいてもらった時間、健ちゃんと一緒にいられた時間。その思い出が今のわたしを動かしているんだ……。結果じゃない。一緒にいる時間を大事にしようってのは、そこから来てるの」

 さっきとは逆で、茜音が泣きたいのをこらえているように萌には感じられた。

「わたし、萌ちゃんとこうした夜も忘れないよ……。わたしの大切な思い出になるんだから……。だから萌ちゃんも、素敵な思い出をたくさん持っているなら、大丈夫だよ。わたしが保証する」

「うん。頑張ります。お姉ちゃんが空で見ていてくれるから……。あのお星様のどれかだって思ってるから」

「そうかぁ。よく、星になるって言うもんね。パパとママもお星様になってるなら、わたしのお願いかなえてくれるかなぁ?」

 二人は空を見上げた。満天の星空を見るためには、この日のように月が出ていては見える星は少ない。それでも周囲が暗いおかげで、普段の星空とは別物のように見えた。




「それ……星に願いを……ですよね?」

 水音だけの世界に、茜音がふと口笛で流した曲に萌が応えた。

「小さい頃にね、ママがわたしを寝かしつけるときによく歌ってくれたの……。初めて覚えた曲がこれだなぁ……。歌詞なんか覚えたのはもっと後だけどね」

 茜音は萌を見て微笑んでいた。

「事故の後、わたしが話せなくなったときも、誰かが偶然に気づいてくれたんだろうね。病院でもわたしの子守歌はこれだったよ」

「でも……」

「うん、本当の両親の事を思い出す歌でもあるよ。でも、それ以上に落ち着いた気持ちになれる……。この曲がアニメ用の歌だって事は分かってるけど、それ以上に思いが込められている気がするなぁ……」

「きれいなメロディですもんね……。私も好き……。茜音さんすごく上手だし……」

「えへ。一応ね、自分のレパートリーの中じゃ一番良く歌えるかなぁ。よし、今度本物聞きに行こうかぁ?」

 照れ隠しのように茜音は笑った。

「いいんですか? でも、美保ちゃんとかついて来そう……」

「だいじょーぶ。うちだって、あの二人がついてくるのは分かってるから」

「菜都実さん、食べてそう……」

「そうそう。この間行ったときも、常になんか食べていたもんなぁ」

 月夜に舞う蛍の光に囲まれて、二人の話はその夜、いつまでも続いていた。