萌の様子が落ち着いてきた頃、そっと彼女の背中をなでながら聞いてみる。
「悔しかったよね……。でも、萌ちゃん、楽しかった?」
「はい?」
突然の問いに、さすがの彼女も意味を瞬時に理解は出来ていない様子だ。
「お姉さんとの生活も、先輩との恋も、萌ちゃんは楽しかったかな?」
萌が微かに頷いたのを確かめて、茜音は続ける。
「あのね……、わたしのこの旅の理由を萌ちゃんは知ってる。正直ね、この先も見つけられるか分からないよ。それに、見つかったとしても、健ちゃんがわたしのことを覚えていてくれるか、わたしの気持ちを分かってくれるかなんて、全然分からない……。結果は分からないよ。でも、こうやって旅をして、自分の気持ちを整理して、萌ちゃん、美保ちゃんみたいなたくさんの人に出会って、そして結果を自分でたぐり寄せることの方が大切なんじゃないかって。わたしはこの旅を楽しんでる。結果よりも過程の方が大事なんじゃないかなって思うんだ……」
「茜音さん……。楽しかったですよ。私の一生の思い出になるくらい……」
「そっか……。なら、次の時はその楽しかった思い出を越えるように楽しめばいいんだよ。お姉さんのことはきっと萌ちゃんの心の中にずっと残っていくと思う。でも、そのお姉さんを心配させないように、楽しんで歩いていけば、それがお姉さんに対する最高の贈り物だと思うな」
萌の肩を再び引き寄せる。
「うん……。やっぱり茜音さんの方が年上ですね」
「こらぁ……。でも、昨日の夜、びっくりしたなぁ。まさかあの日にわたしのことを助けてくれた人がこんなところにいたなんて……」
「あ、私もぜんぜん知りませんでした。運命なんですかね?」
朝に弁当を作っているときに聞いたのだろう。萌もそのことは全く知らなかったという。
「それだけでも、この旅が無駄じゃなかったって1つの結果になったよぉ。萌ちゃんみたいな妹もできたしね?」
「本当にいいんですか?」
「わたし、両親に言われていたの。茜音が小学校に上がったら、弟か妹を作ろうって……。その頃から妹でも弟でも欲しかったんだ……。お家だってすぐ近くだもん。わたしのこと、もう一人のお姉さんと思ってくれたら嬉しい。でも……、萌ちゃんに比べたら頼りないけどね」
「ううん。今夜のお話を聞いて、大丈夫だって思いました。あのね茜音さん……。去年はさっきの駅で部活の先輩とお話ししていたんです。その先輩も好きな人がいて、お家が離れなくちゃならなくなって……。でも、勇気だして会いに行って、今は遠距離恋愛してます」
「萌ちゃん……」
「私、茜音さんたちが羨ましいです。確かに、これまで本当に大変な苦労されたかもしれないけど、ちゃんと巡り会えば絶対に離れないと思います。今回は空振りしちゃったんですけど……、他にも場所はいくつか知っている場所もあります。私も探し続けます。約束します」
袖口で顔に出来た筋をぬぐい取り、いつもの萌に戻って頷いてくれた。