「茜音も早く寝なよ?」

「うん、菜都実こそへとへとなんでしょう。美保ちゃんとあれだけ遊び回って……」

 あのあとも天竜川の川下りをしたり、近くに人家もないようないくつかの無人駅に降りて探検してみたりと、気がついたらもう夕方で、五人は遊び疲れた様子で戻ってきた。

 翌日の出発を控えて、荷造りを終えると、家の中が急に静かになった。

「茜音さん……。まだ寝れないんですか?」

 前夜と同じく、縁側でぼんやりと空を見上げていた茜音の背後から小さな声がした。

「萌ちゃん?」

「駅の方に散歩……行きませんか?」

「萌ちゃんの邪魔にならないなら、いいよ。でもちょっと待って、パジャマじゃちょっと恥ずかしいから」

 他の二人を起こさないように、Tシャツとショートパンツに着替える。萌は玄関先で待っていてくれた。

 二人並んで月明かりに照らされた道を歩く。

「萌ちゃんのそれ、昨日の夜も着てたでしょ?」

 昨日の夜も彼女が着ていたそのセーラー服にハーフパンツの部屋着だろうか。

 たぶん自分の制服を元にして作っているのだろう。本当の制服とは違い、綿素材の柔らかい布地でできているらしく、涼しそうに見える。実際の制服よりも、こちらの方が彼女によく似合う感じがした。

「見てたんですかぁ? 本当は劇の衣装用に作ったんですけどね。結局使うことはなくて、私がそのまま使ってます」

「なんか羨ましいなぁ。でも、いつくらいから作り出したの?」

 ここまで自在に服が作れるようになるには、それなりの長い時間がかかるだろうから。

「小学校の……、3年生くらいから、お洋服を改造はしてました。一着作れるようになったのは5年生の最後くらいだったと思います。6年の時は卒業発表会の衣装係やりましたから」

「そうかぁ。それじゃぁもう慣れてるわけだよなぁ……。今度、型の起こし方教えてほしいなぁ」

 これで茜音も自分で服が作れるようになる。彼女たちのような服は値段もそれなりに張るから、自分で作ってしまえば安くあげられるし愛着も湧く。

「いいですよ。茜音さんには、今回のお詫びに、なにか1着作る予定でしたから……」

「ほえ? いいよぉお詫びなんて。でも、もし教えてもらえるならあのベストの上下がいいなぁ。萌ちゃんが着ていた奴」

「いいですよぉ、帰ったらサイズ計らせてくださいね」

「いやだなぁ~、萌ちゃんに貧弱なサイズ全部分かっちゃうのかぁ」

 照明に浮かんでいた小さな駅には誰もいなかった。萌は小さな待合室のベンチに腰掛けた。

「この待合室、数年前まではこんなんじゃなかったんですよ。古かったですけど、木造の建物で、もっと待合室も広くて、雰囲気が良かったんですけど……。ちょっと残念でした……」

「そっかぁ。それでだったんだね……」

「あと、その軒下のベンチで、優子お姉ちゃんとお話ししていた思い出があるんです。1回だけですけど連れてきてくれて……」

「そう……なんだ……。優子お姉ちゃんって、あの……」

「はい……」

 昨日、この駅に降り立ったとき、萌が寂しそうにしていたのは、その景色だけでなく、思い出までが失われてしまったからなのかもしれない。

「茜音さん、ちょっと暗いですけど一緒に来られますか? 秘密の場所に案内します……」

「わたしが行っても大丈夫?」

「はい……。でも途中ちょっと足場が悪いんです。今日は月明かりがあるから大丈夫だと思います」

 立ち上がった萌が手を差し出してくれた。